●新年の挨拶、および、ヒッチコックとホークス映画について私が学んだ二、三の事柄①(蔵出し原稿)

2019年04月14日

新年あけましておめでとうございます。

ふと思い立ってこのブログをひっそりと始めたのが、昨年の4月のこと。個人的に偏愛する映画の1本、ニコラス・レイ監督の『孤独な場所で』から原題を拝借して、ブログ名を「In A Lonely Place」と名付け、はたしてこれから先どうなるか、自分でもさしたる目算もないまま、毎回毎回、無い知恵を懸命に絞り出しながら、おぼつかない足取りで今日まで歩み続けてきて、どうにか無事、新たな年を迎えることが出来ました。

その間、読者の方々からさしたる反応がなかったのは、ブログ名をそうした以上、こちらとしてもあくまで覚悟の上ではあったものの、(そんな中、「いいね!」ボタンを押して筆者を温かく励ましてくださる奇特で熱心な愛読者の方が、毎回若干約1名いるのは、有難くも嬉しい限りで、ここに篤く御礼申し上げます)、それでも、こちらの活動をじっと静かに見守ってくださる読者の方が着実に増えているようで、この丸8ヶ月の間に、当ブログへのアクセス総数は、いつのまにやら2万5千を突破した模様。ここであらためて皆さんに、深く感謝致します。これからもまた、ぼちぼちマイペースでブログを続けていきたいと思っていますので、どうか今後もお引き立てのほど、よろしくお願い致します。

というわけで、正月の3が日を過ぎ、多少遅ればせながらも、この場を借りて、本年の年賀状を皆さんにもお届けしたいと思います。トリ年といえば、映画ファンに真っ先に頭に思い浮かぶのは、やはりこの人をおいてほかにないでしょう...。

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ついでに、その前年に作って、既に去る年(サル年)と相成った2016年用の年賀状も、ここに思い切って公開させてもらうことにします。

ご覧の通り、筆者の願い事が図らずも叶って、シネマヴェーラ渋谷でのハワード・ホークス映画祭の開催により、映画『モンキー・ビジネス』(1952)が久しぶりにスクリーンにかかってめでたく復権を遂げる一方、世の中におけるモンキー・ビジネスの横行の度合いも一層拍車がかかっている感じで、はてさてこの先、世界の将来は一体どうなることかしらん!?


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それはさておき、ここでまた話題と話の調子を変えて、年頭を飾るのにもっとふさわしい、愉快で明るい映画ネタを披露するようにしよう。年賀状の図案にケーリー・グラントを2年続けて登場させる形となったのは、我ながら不思議な偶然というもの。前回もざっとごく簡単におさらいしたように、ヒッチコック(1899-1980)とホークス(1896-1977)といえば、「作家主義」の映画批評の世界においてはしばしば相並んで称賛される神話的巨匠の双璧であり、1920年代半ばの無声映画の時代に監督デビューを飾り、1970年代に至るまで娯楽映画の領域で活躍し続けた、その息の長い創作活動歴や活動の時期など、多くの点で重なり合う部分がある一方で、あらためて考えてみると、ヒッチコックとホークスの映画に共通して出演した映画スターは、案外少ないことに気づく。

そうしたなか、『赤ちゃん教育』(1938)、『コンドル』(1939)、『ヒズ・ガール・フライデー』(1940)、『僕は戦争花嫁』(1949)、『モンキー・ビジネス』(1952)と、ホークス映画には5本、『断崖』(1941)、『汚名』(1946)、『泥棒成金』(1955)、『北北西に進路を取れ』(1959)と、ヒッチコック映画には4本主演したケーリー・グラントは、両者の映画世界それぞれに見事にフィットした、ほぼ唯一無二の天下無敵の映画スターと言えるだろう(他には、『特急二十世紀』(1934 ホークス)、『スミス夫妻』(1939 ヒッチコック)のキャロル・ロンバード、『赤い河』(1948 ホークス)、『私は告白する』(1952 ヒッチコック)のモンゴメリー・クリフトといった例が、わずかに挙げられる程度だ)。

『紳士は金髪がお好き』(1953)といえば、無論、ホークス映画の題名の1本だが、"金髪がお好き"ということでいえば、思い浮かぶのは、むしろヒッチコックの方。そして、ヒッチコック好みの究極のブロンドの美女、グレース・ケリーがケーリー・グラントと共演した『泥棒成金』の印象的な一場面において、ケリーがグラントに唐突に尋ねる、さりげなくもエロチックできわどい質問が、「あなたが欲しいのは脚? それとも胸?」というもの。実はそれは、女性の体の部位に対するグラントの好みを、ケリーがずばり単刀直入に問い質すものではなくて、ピクニックの昼食用に彼女が用意してきたフライドチキンのことをグラントに尋ねる質問だった、という愉快なオチが、すぐさま明かされることになるわけだが、この問いは、ヒッチコック映画というより、ホークス映画の男性主人公たるグラントにこそ、差し向けるのにふさわしい質問だろう。そして、ホークス的男性の好きな、スポーツならぬ、女性のチャームポイントは、必ずや「脚」という答が返ってくるに違いない。

ここで、先に紹介した2016年の年賀状の『モンキー・ビジネス』の一場面における、ケーリー・グラントとマリリン・モンローのツーショットの場面写真を、あらためて皆さんにもじっくりと眺めて頂きたい。ご覧の通り、ここでモンローは、グラントに対して、自慢の脚線美を誇らしげに披露している。それに対するグラントの視線は、ここでは彼女の脚ではなく、それより上方に向けられていて、この場面写真だけでは、金髪、豊満な胸、そして脚線美と、三拍子揃ったモンローの女性的魅力の一体どこに関心を惹起されているのか、なんとも判別しがたい。そこで、第二の証拠写真としてここに提出したいのが、以下のもの。これなら、間違いなくグラントが、モンローの脚をとくと検分している様子がよく分かるだろう。

実のところ、この映画におけるグラントの人物設定は、若返りの特効薬の開発に余念がない奇人博士という役柄で、この場面においても、彼が入念に眺めているのは、モンローの脚ならぬ、彼女の穿いたストッキングの方。ただし、ホークス映画のファンならばきっと、この『モンキー・ビジネス』の場面と同様に、ホークス的美女たるヒロインが、これまたホークス的な男性主人公に対して自慢の脚線美を惜しげもなく見せつけて相手を悩殺するよく似た場面を、あれこれ思い浮かべることが出来るに違いない。

というわけで、お次は、『教授と美女』(1942)でバーバラ・スタンウィック扮するヒロインが、ゲーリー・クーパーら、象牙の塔にこもった世間知らずの教授連に対して、自慢のおみ脚を触らせる有名な一場面と、『ヒット・パレード』(1948)の劇中、ヴァージニア・メイヨがダニー・ケイに対して同じ仕草を見せる場面写真を続けてどうぞ。

映画ファンならば御存知の通り、『ヒット・パレード』は、ホークス監督が『教授と美女』を自らリメイクした作品であり、同じような場面が登場するのは必然の成り行き、と思う方もいるでしょうから、さらに別のホークス映画で似たような場面写真をお目にかけると、こちら。

そう、初期のホークス映画の代表作の1本、『港々に女あり』(1928)において、断髪の黒髪が印象深い伝説的モガ女優、ルイーズ・ブルックスがヴィクター・マクラグレンを相手に披露する艶然としたポーズですね。

さらに1本前に遡ったホークスの監督第4作『雲晴れて愛は輝く』(1927)にも、こんな場面が登場する。

そしてさらに、『群衆の歓呼』(1932)では、ジェームズ・キャグニー扮する主人公の弟エリック・リンデンが、眼前で足を投げ出すジョーン・ブロンデルの脚線美に視線がすっかり釘付けになるし、『永遠の戦場』(1936)では、ジューン・ラング扮するホークス的美女が、椅子に座って足を交差させた姿で最初に登場し、そこへ姿を見せた兵士の1人が、やはり彼女の脚線美にイチコロで悩殺される様子がユーモラスに描かれる。

前回のログでも紹介させてもらったように、筆者は以前、WOWOWでホークス映画特集が放映された際に、その5作品を中心にホークスの映画世界について多少本格的に論じた長めの文章を書いたことがあって、その中で次のように記していた。

  •  一見雑多でばらばらな題材や通俗的な物語を超えてなお、各作品を通底して流れる作者固有の世界観と論理、反復的な主題とその豊かな変奏、そしてさまざまな細部同士がいたるところで連携・共鳴し、めくるめく無限の乱反射を起こす途方もない世界。それが、今なお汲み尽くすことのできない多面的な魅力を湛えたホークスの映画世界だ。

これまで、さまざまな場面写真と併せて紹介してきた、女性の脚に対するホークス監督のフェティッシュなこだわりようも、まさにそれをよく物語る好例のひとつ。前回、そして今回も最初の方に紹介した通り、目下、東京は渋谷にある名画座シネマヴェーラ渋谷で、山田宏一氏のセレクションによるハワード・ホークス映画祭が開催されていて、筆者も暇を見つけては劇場に足を運んだり、手持ちのDVDやブルーレイを引っ張り出したりしては、せっせとホークス映画を見直している最中。そこで今さらながらに改めて気づいたことのひとつが、上記の事柄であり、さすがに今回、ホークスの全作品を見返して精査する時間的余裕は到底なさそうなので、あとは省略させてもらって、読者の方々にはお許しを頂きたいが、同様の場面はきっと、これ以外のホークス映画にも数多く見つかるに違いない。

さて、それでは、最後はやはりホークス監督本人にトリとしてご登場願って、正月早々からまたもや長くなってしまった今回の話を締め括ることにしよう。写真は、『リオ・ブラボー』(1959)の撮影合間に、これまた見事な脚線美とプロポーションを誇るホークス的美女、アンジー・ディッキンソンと見つめ合うホークス本人のご満悦そうな姿。先頃刊行されたばかりの山田宏一氏の新著「ハワード・ホークス映画読本」の表紙を飾る1枚でもある。

[2017.1.4 旧ブログ「In A Lonely Place」にアップ]