●WOWOW 日活ロマンポルノ特集(蔵出し原稿)

2019年11月24日

[注記:以下に蔵出しするのは、2016年11月、WOWOWでの日活ロマンポルノの特集放送に合わせて、筆者が旧ブログ「In A Lonely Place」にその紹介記事を個人的に書いたもので、この特集放送は既に終了し、近日、再放送の予定があるわけでは格別ないことを、はじめにお断りしておきます。どうかお間違えのないように。既に皆さんも御承知の通り、いまや映画を鑑賞する方法やツールはさまざまにあるので、拙文を読んで、ここに言及された諸々の作品に興味を持たれた方は、各人の自助努力でその先をぜひお楽しみください。]


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WOWOWで「特集:日活ロマンポルノ45周年」と題して、2016年の今年、その誕生から45周年を迎えた日活ロマンポルノの妖しくも魅惑的な作品群の中から、以下の6本が特集で放映される。

  • 『団地妻 昼下りの情事』(1971 西村昭五郎/主演:白川和子)
  • 『牝猫たちの夜』(1972 田中登/主演:桂たまき)
  • 『OL日記 牝猫の情事』(1972 加藤彰/主演:中川梨絵)
  • 『濡れた壺』(1976 小沼勝/主演:谷ナオミ)
  • 『わたしのSEX白書 絶頂度』(1976 曽根中生/主演:三井マリア)
  • 『悶絶!! どんでん返し』(1977 神代辰巳/主演:谷ナオミ)


例によって筆者も、そのうちの一部のデータ解説の裏方仕事を手がけたので、ここでまたぜひ紹介・宣伝に相努めることにしたい。

https://bit.ly/35v8G7Q


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日本の大手映画会社のひとつで、とりわけ戦後、石原裕次郎、小林旭の2大スターを中心にアクション映画路線を敷き、大いに活況を呈した日活が、1960年代後半から次第にジリ貧の経営危機に陥った末、1971年、窮余の一策として思い切って打ち出したのが、男女の性愛をドラマの主軸に据えた低予算の成人映画を、会社一丸となって量産するという大胆な路線変更だった。

とはいえ、TVの普及・浸透に押されて、1960年前後を境に、映画産業は既に急速に斜陽の道を辿っていて、1960年代半ばからは、若松孝二監督らが量産するピンク映画や、やはりTVとの差別化を図るため、性や暴力をより前面に押し出した、独立プロ製作の低予算映画が大きく台頭。大手の各映画会社もこの流れに追随し、東映では、異才・石井輝男監督が"異常性愛路線"と呼ばれるエログロの怪作群をたて続けに放ち、鈴木則文監督も池玲子を日本初の"ポルノ女優"と銘打って売り出すなど、東映ポルノ路線をひと足先にスタートさせていた。一方、日活同様、この時期経営危機に陥っていた大映は、この1971年の末、遂に倒産の憂き目に遭うことになる。

そんななか、1971年11月20日、日活ロマンポルノの記念すべき第1弾として作られたのが、今回のWOWOWの特集でもトップを切って放映される『団地妻 昼下りの情事』(劇場公開は、ポルノ時代劇『色暦大奥秘話』(1971 林功/主演:小川節子)との2本立て)。この時点で十数本の監督作を手がけていた中堅の職人監督・西村昭五郎は、それまでピンク映画を見たこともなくて、どんなものを撮ればいいか勝手次第がよく分からず、既に200本余りのピンク映画に出演した実績を持つ主演女優の白川和子に、あれこれ聞きながら手探りで映画を撮り進める一方、それまで貧弱な撮影現場しか知らなかった白川和子は、日活撮影所を初めて訪れた際、まるでハリウッドみたい、と思わず目を丸くしたという。

かくして暗中模索の中、スタートした日活ロマンポルノだったが、当時既に一種の流行語になっていた"団地妻"を題材に取り上げたタイムリーな内容と、低予算の早撮り映画とはいえ、撮影や美術をはじめ、やはりピンク映画とは格段に異なる、日活撮影所の熟練スタッフによるプロダクション・バリューの質と厚み、そして人々のスケベな好奇心も大いに手伝って、いざ蓋を開けてみると一躍多くの観客が映画館に押しかけ、日活の路線変換の賭けは吉と出て大成功。翌年、日活ロマンポルノが警察庁からわいせつだとして摘発を受けるも、反権力の法廷闘争を通じてかえって世間の注目と関心を一層集めることにもなった。

ロマンポルノに戸惑いや反発を覚えて、従来、日活のアクションや青春映画を支えてきた多くの俳優や監督、スタッフたちが会社を去っていく一方で、長らく下積み生活を余儀なくされていた神代辰巳を筆頭に、彼と同様、まだ監督経験が1本きりだった加藤彰、あるいは、小沼勝、田中登、曾根中生といった新人の監督たちが、ロマンポルノという未開の新天地で、お約束の濡れ場さえ適宜劇中に織り挟めば、あとは何をしてもOKと、制約上のハンデをむしろ逆手にとって、自由奔放な発想のもと、のびのびと大胆不敵に映画的表現の新たな可能性を追い求めてその個性と才能を十二分に発揮し、大きく羽ばたいていった。

そしてまた、出発当初こそは女優探しに苦労したものの、やがてヌードになることを厭わない若い女優たちが、続々と日活ロマンポルノに集結。白川和子同様、ピンク映画界出身の宮下順子や谷ナオミ、ストリッパーの一条さゆりや芹明香、新劇出身の絵沢萌子や伊佐山ひろ子、さらには、東宝のニューフェイスだった中川梨絵や、日活生え抜きの田中真理、片桐夕子、等々、幾多の忘れ難い名花たちが、その妖艶な官能的魅力を存分に披露して、日活ロマンポルノは一躍、百花繚乱の黄金時代を迎えることになる。

映画産業が衰退し、日本の撮影所システムが崩壊期を迎えていた1970~80年代、日活の撮影所は、いわば映画活動屋の最後の砦たる自由解放区として機能し、結局、日活(1978年からは社名変更により、にっかつ)ロマンポルノは、アダルトビデオの隆盛に押されて、1988年、遂にその終焉の時を迎えるまで、17年間にわたってプログラム・ピクチュアとして定期的に量産され続けた。そしてそこからなお、根岸吉太郎、池田敏春、森田芳光、金子修介、中原俊、石井隆、等々の次世代の監督たちはもとより、もはやここで名前を列挙するのはあえて省くが、数々の人気女優たちをも輩出することになったのだった。


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今回のWOWOWの特集で放映されるのは、総計700本弱にも及ぶ日活ロマンポルノの映画作品のうちのわずか6本で、いずれも1970年代の前半から中盤にかけての、主に初期の作品が中心。その最初の出発点となった『団地妻 昼下りの情事』は、まずはおさえの入門編として外せないとして、あとの5本を選び出すのは、ひとによって好みも千差万別であり、非常に難しいところ。

個人的には『悶絶!! どんでん返し』がイチオシで、筆者としては、日本のコメディ映画史上、とびっきりの大ケッサクと思っているものの、これはやはり、神代辰巳監督の作品群の中では変わり種のユニークな珍品で、日活ロマンポルノ屈指の名監督・神代の代表作となると、宮下順子主演の名作『四畳半襖の裏張り』(1973)や『赫い髪の女』(1979)あたりを挙げるのが、まずは順当なところ。

その神代組の常連スタッフでもあった日活の名物女性スクリプター、白鳥あかねが脚本を手掛けた『わたしのSEX白書 絶頂度』は、曽根中生監督ならではの鋭利に研ぎ澄まされた演出手腕が遺憾なく発揮された刺激満点の傑作だが、石井隆の同名劇画を水原ゆう紀の主演で映画化した『天使のはらわた 赤い教室』(1979)も、日活ロマンポルノ史上、そして日本のメロドラマ映画史上、屈指の名作。

同様に、『牝猫たちの夜』の田中登監督には芹明香主演の『㊙色情めす市場』(1974)や宮下順子主演の『実録阿部定』(1975)が、

そして『濡れた壺』の小沼勝監督には、やはり谷ナオミ主演で『花と蛇』(1974)や『花芯の刺青 熟れた壺』(1976)があり、


『OL日記 牝猫の情事』の加藤彰監督には白川和子主演の『恋狂い』(1971)が、



さらには、女優主体で見ても、中川梨絵には、神代辰巳監督の『恋人たちは濡れた』(1973)や田中登監督の『㊙女郎責め地獄』(1973)がある、といった具合に、各自を代表する傑作はまだまだ無数に存在する。

これまで、つい敬遠して日活ロマンポルノの世界を知らぬまま人生を過ごしてきた映画ファンが、もしいるようであれば、今回のWOWOWでの特集を機に、ぜひ勇気を奮ってそこに足を踏み入れて、その魅惑的で奥深い官能世界を存分に堪能してみて欲しい。きっと、男女を問わず、多くの観客に不思議な解放感と生きる活力を与えてくれるはずだ。


[2016.11.12 旧ブログ「In A Lonely Place」にアップ]