●WOWOW 『子連れ狼』シリーズ特集(蔵出し原稿

2020年03月29日

[以下に蔵出しするのは、2017年4月、WOWOWでの『子連れ狼』シリーズの特集放送に合わせて、筆者が旧ブログ「In A Lonely Place」にその紹介記事を個人的に書いたもので、この特集記事は既に終了し、近日、再放送の予定があるわけでは格別ないことを、初めにお断りしておきます。どうかお間違いのないように。いまや映画を鑑賞する方法やツールはさまざまにあるので、拙文を読んで興味を持たれた方は、各人の自助努力でその先をぜひお楽しみください]


***************************************


WOWOWで、「日本映画コレクション:『子連れ狼』全6作一挙放送」と題して、1970年代に一世を風靡した小池一夫(当時は小池一雄名義)原作&小島剛夕作画の同名人気劇画を、若山富三郎の主演で実写映画化した『子連れ狼』シリーズの6作品が特集で明日から連夜放映される。


  • 『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』(1972 三隅研次)
  • 『子連れ狼 三途の川の乳母車』(1972三隅研次)
  • 『子連れ狼 死に風に向う乳母車』(1972三隅研次)
  • 『子連れ狼 親の心子の心』(1972 斎藤武市)
  • 『子連れ狼 冥府魔道』(1973 三隅研次)
  • 『子連れ狼 地獄へ行くぞ!大五郎』(1974 黒田義之)


例によって、筆者もそのデータ解説の裏方仕事を手がけたので、紹介のタイミングがすっかり遅れて放映開始の直前になってしまい何とも恐縮だが、ここでまたぜひ宣伝に相努めることにしたい。

https://bit.ly/3bwN1Py


***************************************


この映画『子連れ狼』シリーズの原作は、1970年から漫画雑誌「漫画アクション」に連載されて当時人気を博していた、小池一夫原作&小島剛夕作画のコンビによる同名劇画(連載が終了するのは1976年)。物語の主人公となるのは、江戸時代、徳川幕府の公儀介錯人として、切腹を命じられた大名の介錯を務める(つまりは、切腹する人の首を刎ねて最後のとどめを刺す、文字通りの首切り役人である)拝一刀。彼からその要職を奪い取ろうと企んだ柳生一族の計略によって、幕府の逆賊の汚名を着せられ、愛妻を殺された一刀は、冥府魔道に生きるアウトローの"子連れ狼"と化し、まだ幼い一子・大五郎を手押し車に乗せてさすらいの地獄旅を続けながら、さまざまな修羅場をくぐり抜けていくこととなる。

(*まずは、シリーズ第1作『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』の予告編はこちら

https://bit.ly/2QS0Pwc


連載開始当初から同作にすっかり惚れ込んだ男優の若山富三郎が、劇画原作者の小池一夫のもとにアポなしで押しかけて、主人公を演じるのは自分以外にない、と直談判に及び、原作者の了承を取り付けたことから、若山の主演、そして彼の実弟である勝新太郎が主宰する独立プロ、勝プロダクションの製作で映画化されることが決定。まずは1972年1月に『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』が封切られて大ヒットしたのを皮切りに、以後、3年間に計6本もの映画が矢継ぎ早に連作され、また、この映画版シリーズと並行して、1973年からは萬屋錦之介主演のTVドラマ版シリーズもスタートして両者が人気を競い合うこととなった。さらには、この時期、やはり勝プロダクション製作、勝新太郎主演の『御用牙』シリーズ3部作(1972-1974)、藤田敏八監督&梶芽衣子主演の『修羅雪姫』2部作(1973-1974)、石井輝男らが監督を務めた『忘八武士道』2部作(1973-1974)など、小池一夫原作の別の劇画作品も相次いで映画化され、小池は当時の日本のエンタメ界きっての特異なヒットメイカーの地位と名声を確立することになる。


***************************************


さて、この若山富三郎主演の映画版『子連れ狼』シリーズといえば、やはり何といっても、その強烈なエログロ描写、とりわけ、まるでマカロニ・ウェスタンかスプラッター・ホラーと見まがうような、奇想天外でぶっとんだ数々の衝撃的な残酷描写で、日本はもとより、いまや海外でもカルト的な人気を誇る、壮絶なバイオレンス娯楽時代劇(海外では、B級映画の帝王として知られるあのロジャー・コーマンが、本シリーズの最初の2本を1本に再編集した上で、『SHOGUN ASSASIN』の題名で1980年に全米で配給・公開して異例のヒットを記録したほか、今日では、世界中の映画の古典的名作やカルト作品をDVDやブルーレイでリリースしている老舗ブランドのクライテリオンが、『子連れ狼』のシリーズ全6本を『LONE WOLF AND CUB』の英題シリーズで一括セットにして発売していて、もはやすっかり映画の殿堂入りを果たしたといっても過言ではない)。

主人公の拝一刀と、その宿敵・柳生一族が差し向ける、さまざまな秘術・妖術の持ち主たる刺客たちとの熾烈な死闘が、毎回、映画の大きな見せ場となるが、そうした息詰まる対決の場面では、いずれ劣らぬ剣術の名手たちが、まるで大根やスイカを無造作に叩き切るかのように、人間の手足や首を刀や槍でスパスパと斬りまくり、生首が威勢よく吹っ飛んだり、頭が真っ二つに裂けて、中からどっと血しぶきが迸り出たり、といった、何ともどぎつくてエグい残酷描写が、シリーズの全作にわたって頻出。

当時の観客はもとより、それなりに過激な暴力・流血描写には慣れているはずの今日の観客が今回初めて本シリーズに接して見ても、これはさすがに、いくら何でもやりすぎでしょ......と、思わず度肝を抜かれてのけぞり返ってしまう人が続出するであろうことは、想像に難くない(その手のものはどうも苦手、とはじめから敬遠する人も多そうだが、その一方で、中にはこれを、半ば呆れ返って辟易しつつも、シュールでナンセンスきわまりないブラック・コメディとして受け止める観客も、案外少なくない気がする。実は何を隠そう、筆者もその一人で、不謹慎であることは重々承知しつつも、時々、そのあまりにも奇を衒った荒唐無稽な立ち回りに、ほんとにまあ、よくやるよと、つい思わずプッと吹き出しそうになるのを、こらえることが出来なくなる)。

そのエログロナンセンスな徹底した娯楽志向と猟奇的な見世物趣味が、ここで狂い咲きのごとく全面的に開花するようになった背景には、この若山富三郎主演の映画版『子連れ狼』シリーズが生み出された、当時の日本映画界の切迫した時代状況が大きく関わっていると言えるだろう。以前、WOWOWで「日活ロマンポルノ特集」が放映された時、当ブログで書いた紹介文の中でも説明した通り、日本の映画産業は、1960年代以降、TVの普及・浸透に押されて急速に斜陽の道を辿っていて、1960年代半ばからは、TVとの差別化を図るため、セックスやバイオレンスをより前面に押し出したピンク映画や独立プロ製作の低予算映画が大きく台頭。大手の各映画会社も、やむなくこの流れに追随して従来のマンネリ気味のプログラム・ピクチュア作りからの大きな路線変更を余儀なくされ、戦後、数々のアクション映画や青春映画で名声を築いてきた日活は、1971年、ついにロマンポルノへの思い切った路線転換を断行するに至ったのだった。

https://bit.ly/2WS0o90


この若山富三郎主演の『子連れ狼』シリーズの映画化は、勝新太郎率いる独立プロ、勝プロダクションの製作で行われたことを先に記したが、勝新といえば本来は、やはり日本の大手映画会社のひとつ、大映が誇る看板スター。しかし、ワンマン名物社長の永田雅一率いる大映は、この切迫した状況下にあってもなお放漫な経営を続け、すっかりジリ貧の窮地に陥っているところへ、1969年には、勝新と並ぶ大映の看板スター、市川雷蔵が肝臓ガンにより、37歳の若さで急逝して、致命的な打撃を被ることになる。

それより一足先の1967年に、大映傘下の社内プロという形ではあるものの、自らの独立プロ、勝プロダクションを旗揚げして、映画の製作や監督業にも意欲的に取り組んでいた勝新は、奇しくも日活ロマンポルノの第1弾の2本立て、『団地妻 昼下りの情事』(1971 西村昭五郎)と『色暦大奥秘話』(1971 林功)が封切られて間もない1971年11月の末、大映がついに全面的に業務を停止して全従業員を解雇し、倒産するという衝撃的なニュースに接する。この時、この『子連れ狼』シリーズの第1作『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』は、勝新が自ら主演する人気シリーズの第23作『座頭市御用旅』(1972 森一生)と同様、映画作りが進められているさなかにあった。

勝プロダクション製作のこの2本の映画は、本来、大映の配給で封切られることになっていて、会社の倒産によりすっかり宙を浮く形となったが、勝新はそのまま映画の製作を続行。別の大手映画会社・東宝が、勝プロダクションとの新たな業務提携を申し出て、渡りに船とばかり、勝新は同社と破格の条件で契約を結び、翌1972年、『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』と『座頭市御用旅』は、東宝の正月映画第2弾として無事公開され、とりわけ猟奇的な残虐趣味を大胆不敵に打ち出した前者の刺激満点な内容が評判を呼んで、この2本立てのプログラムは大ヒットを記録することとなった。早速、『子連れ狼』はシリーズ化されて矢継ぎ早に続編が作られることも決まり、映画を作っているさなかに、古巣だった会社の倒産と失業の憂き目に遭い、一時的とはいえ、今後の将来の見通しすら立たない危機に直面した『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』の三隅研次監督と大映京都の一流の精鋭スタッフたちは、新天地でのさらなる活躍の場を確保され、ますます奇抜でショッキングなスプラッター時代劇路線を嬉々として突き進むことになったのだった(三隅監督は、結局、『子連れ狼』シリーズ全6作中、第1・2・3・5作の計4作の演出を担当した)。

勝新主演の『座頭市』シリーズの記念すべき第1作となった『座頭市物語』(1962)や、市川雷蔵主演の人気シリーズの白眉というべき最高傑作『眠狂四郎無頼剣』(1966)、あるいはまた、珠玉のメロドラマ『なみだ川』(1967)等の、どこまでも凛と張りつめた緊張感が全篇に漲る繊細で美しい映画世界をこよなく愛する筆者としては、ここまでゲテモノ的な見世物趣味に徹して派手なスペクタクル描写に走る、三隅研次監督の過剰でサービス満点の演出ぶりに、正直、驚きと戸惑いを覚えずにはいられないが、不退転の決意をもって、ルビコン河というか三途の川を渡り、さらなる映画表現の新たな地平をめざして冥府魔道をどこまでも果敢に突き進んだ、彼の不撓不屈の映画活動屋魂には、そうした個人的な趣味嗜好の次元を通り越して、ただもう脱帽するしかない。

御存知、黒澤明監督の『用心棒』(1961)や『椿三十郎』(1962)に始まる、日本の時代劇における人体破損や大量流血等の残虐描写をとことんまで推し進めたシリーズ第2作の『子連れ狼 三途の川の乳母車』や、第3作『子連れ狼 死に風に向う乳母車』における、吹っ飛んだ生首の視点から捉えられた信じ難い主観のワンショット(!)などは、やはり圧巻の一語あるのみ。

『椿三十郎』
『椿三十郎』
『子連れ狼 三途の川の乳母車』
『子連れ狼 三途の川の乳母車』

『子連れ狼 死に風に向う乳母車』
『子連れ狼 死に風に向う乳母車』

というわけで、では、そろそろ皆さんも、『子連れ狼』シリーズの地獄旅へ、いざ参ろうぞ!


[2017.4.1 旧ブログ「In A Lonely Place」にアップ]