●音楽を通して、Let’s Go To The Movies !                         ― 一風変わったサントラ紹介③

2020年06月07日

前回の最後に、今回の予告編代わりに、ディズニー・アニメの古典的名作『ピノキオ』(1940 ベン・シャープスティーン & ハミルトン・ラスク)のお馴染みの主題歌、「星に願いを」を御存知ビートルズの一員であるリンゴ・スターがヴォーカルを担当してカヴァーしたYouTube動画のリンクを貼っておいたのだが、その時点では視聴可能だったのに、いつの間になぜかそれを見ることが出来なくなってしまった。フーム、さてどうしようと思って考えあぐねているうち、緊急事態宣言の解除でいよいよ東京でも待ちに待った映画館での上映が再開され、ついそちらの方に心が傾いて気もそぞろになっているところへ、いったい何をグズグズしているんだと、こちらの背中をどやしつけるかのように、なんとレニー・ニーハウスがこの5月28日、90歳で死去したという思いがけない訃報が飛び込んできて、筆者もつい驚きと動揺を隠せないでいる。

ニーハウスといえば、何より、クリント・イーストウッドの数々の映画音楽を手がけたイーストウッド組の重要スタッフのひとりとしてよく知られているが、ジャズのサックス奏者であったニーハウスは、アレンジャーや指揮者の仕事も数多く手がけていて、実は何を隠そう、上記の曲も彼がオーケストラの指揮とアレンジを手がけているのですね、これが。

今回、そのことにも当然触れる心積もりではいたのだが、しかし何せ、この曲をはじめ、ディズニーのさまざまなアニメや実写映画のお馴染みの名曲の数々を収録したカヴァー・アルバム「Stay Awake : Various Interpretations of Music from Vintage Disney Films」(1988)は、ジャズやロックをはじめ、さまざまな音楽ジャンルから腕利きの一流アーティストたちがずらりと集結した、オールスター・キャストともいえる盛り沢山の内容で、そのほんの一端を紹介するだけでも結構な手間暇がかかるし、前回の話の続きもまだいろいろ残っているので、ニーハウスの話は恐縮ながらもう少し後回しにさせてもらって、まずはアルバム紹介の方から順番にぼちぼち話を進めることにしたい。

というわけで早速、このアルバムに集結した主要メンバーたちの名前を改めてジャケ写から見てもらうと、次の通り。

先に紹介したリンゴ・スターをはじめ、あのザ・バンドの一員ガース・ハドソンや、(ハリー・)ニルソン、ジェームズ・テイラーといった、ロック、ポップス界のベテラン勢から、当時まだデビューして間もないスザンヌ・ヴェガ、シネイド・オコナー、さらにはジャズ界からも、ベティ・カーターやサン・ラー・アンド・ヒス・アーケストラといった異色の顔ぶれが参加している。

これだけではまだ説明が不十分なので、一体誰がどの映画のどの曲をカヴァーしたのかを見てもらうために、裏のジャケ写を紹介すると、次の通り。

これで見てみると、前回大きく取り上げたギターのビル・フリゼール(とキーボードのウェイン・ホーヴィッツ)は、アルバム中の複数の曲のカヴァーを手がけていることが分かるが、実はリンゴ・スターがヴォーカルを務めた「星に願いを」にも、やはりバックの演奏で参加している。そのあたりのことは、後ほど改めて説明する予定。

ではここで、このアルバムからもう1曲、ディズニー初の長編アニメとなった『白雪姫』(1937 デイヴィッド・ハンド)の中からトム・ウェイツが選び出して歌った、まさに彼ならではのユニークな個性炸裂の「Heigh Ho (The Dwarf's Marching Song)」を、誰かが映画の当該場面に勝手に貼り付けた次のYouTube動画で、ご覧頂くことにしよう(ちなみに、この曲のバックでギターを演奏しているのは、やはり前回紹介したマーク・リボー)。

https://bit.ly/3gOY89U


さて、幅広い音楽ジャンルの中から豪華多彩なメンツを呼び集め、贅沢極まりないこのアルバム「Stay Awake」を企画して世に送り出した敏腕音楽プロデューサーの名は、ハル・ウィルナー。音楽通や一部の映画マニアなら、既にその名をとうに御存知かもしれないし、あるいはつい最近、ニュースで初めてその名を聞き知った人もいるかもしれない。何とも惜しくて残念なことに、彼は、新型コロナウイルスに感染し、去る4月7日、この世を去ってしまった。享年64。

ウィルナーは、1981年、フェデリコ・フェリーニ監督との名コンビでニーノ・ロータが生み出したお馴染みの映画音楽の名曲の数々を、さまざまなアーティストたちが参加して独自のカヴァーに挑戦したアルバム「Amarcord Nino Rota」をプロデュースして世に問い、好評を博したのを皮切りに、毎回、これぞと思うひとりのアーティストにスポットを当て、彼らの音楽を豪華多彩なアーティストたちが斬新な切り口でカヴァーする、同様のトリビュート・アルバムを次々と企画・プロデュースして発表。

最初のアルバム「Amarcord Nino Rota」は、カーラ・ブレイやスティーヴ・レイシー、ウィントン&ブランドン・マルサリス兄弟など、主にジャズ畑からピックアップされたミュージシャンたちが数多く参加したが、ウィルナーはその後、誰もがその名を知る有名な人気ロック・スターから、知る人ぞ知る通好みの渋いマイナーなアーティストまで人選の輪を広げ、エッ、あの人がこの曲を? とその意外な取り合わせで音楽ファンたちを思わずうならせるような、刺激的でヴァラエティに富んだラインナップを提供するようになった。

例えば、セロニアス・モンクにトリビュートを捧げた「That's the Way I Feel Now : A Tribute to Thelonius Monk」(1984)には、前作の「Amarcord Nino Rota」に引き続き、カーラ・ブレイやスティーヴ・レイシーらが再び顔を揃えたのに加え、トッド・ラングレンやドナルド・フェイゲン、ドクター・ジョン、ジョー・ジャクソンらも新たに集結。

そして、クルト・ヴァイルにトリビュートを捧げた「Lost in the Stars : The Music of Kurt Weil」(1985)では、ルー・リードやスティング、トム・ウェイツ、マリアンヌ・フェイスフル、ダグマー・クラウゼ、さらには、前回紹介したチャーリー・ヘイデンや、ヴァン・ダイク・パークスらが新たに参加。

ディズニー映画音楽集であるこの「Stay Awake」の次にウィルナーが手がけたチャールズ・ミンガスのトリビュート・アルバム「Weird Nightmare : Meditations on Mingus」(1992)には、なんとローリング・ストーンズの一員であるキース・リチャーズとチャーリー・ワッツ、さらにはエルヴィス・コステロやチャック・Dといった異色の顔ぶれも集結している。

そして、先にも名を挙げたフリゼールは、最初の「Amarcord Nino Rota」に参加して以来、多くのウィルナー・プロデュースのアルバム作りに協力し、この「Stay Awake」や「Weird Nightmare」では、いわばハウス・バンドの一員として多くの楽曲の演奏に携わっている。というわけで、ここでは「Amarcord Nino Rota」から、『魂のジュリエッタ』(1964 フェデリコ・フェリーニ)の映画音楽をフリゼールがカヴァーした次の曲をどうぞ。

https://bit.ly/30fe27U

それから、ここでウィルナーからは少し離れるが、ブラジル音楽界の至宝カエターノ・ヴェローゾが、フェリーニ監督とその公私にわたる名パートナー、ジュリエッタ・マシーナにオマージュを捧げた特別公演の様子を収録した名盤ライヴ・アルバム「Omaggio a Federico e Giulietta」(1999)の中から、やはりロータ作曲の哀愁漂う『道』(1954 フェリーニ)の珠玉の名曲「Gelsomina」をカヴァーしたものを、続けてどうぞ。

https://binged.it/2BxuZzS

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さて、ここからしばらく、前回の話の続きに戻ることになるが、ジョン・ゾーンもまた、モンク、そしてワイルと、ウィルナー・プロデュースのトリビュート・アルバムに続けて参加。前回紹介した「The Big Gundown : John Zorn plays the Music of Ennio Morricone」(1985)の15周年記念盤の中に封入されたライナーノーツの中で、ゾーンは、ウィルナー・プロデュースのモンクのトリビュート盤に参加し、モンクの曲のカヴァーに挑戦することになった時、それまで基本的に即興演奏による一発録りの録音にしか慣れていなかった彼が、スタジオに長時間こもって、他の腕利きミュージシャンたちとのセッションやダビング録音をあれこれ積み重ねながら、演奏や曲作りを精錬させていくやり方に初めて接し、大きな啓示を受けたことが書き記されている。

この体験を経て、ゾーンはいよいよ、NYダウンタウンの精鋭ミュージシャンたちをズラリと取り揃えてエンニオ・モリコーネの映画音楽を大胆にカヴァーした、彼の音楽人生最初のビッグ・プロジェクトたるトリビュート・アルバム「The Big Gundown」の制作に取りかかり、一大ブレイクを果たすわけで、彼にとってウィルナーの果たした触媒的役割が、いかに大きかったかがよく分かるだろう。

そしてこの後ゾーンは、彼自身の人生形成に大きな役割を果たした映画や音楽、文学、美術、等々、幅広い領域にわたるさまざまなアーティストたちに、音楽を通してトリビュートを捧げる曲やアルバム作りに積極的に乗り出していく。ここではやはりまず、この時期、ゾーンが、フランスのマイナーレーベルnatoが企画した、御存知ジャン=リュック・ゴダールに捧げるトリビュート・アルバム「Godard Ça Vous Chante?」(1986)に参加して作り上げ、後に自ら設立したレーベルTZADIKで、同様のサウンド・コラージュの手法を存分に駆使して生み出した「Spillane」(1987)とのカップリングで再発した、その名もずばり、「Godard」と題された渾身の一作を以下でどうぞ。

https://bit.ly/2XA6PgG

(YouTubeには、18分強にも及ぶ長めの1曲を2分割したものしか見つからなかったので、とりあえず前半部の方を。これだけでも全体的な雰囲気はざっくり掴めるはずだが、気に入った方は、この続きの後半部や「Spillane」をご自分で探してお試しあれ)

さらには、前回紹介したゾーン率いる前衛的音楽バンド、Naked Cityの同題のデビューアルバム(1990)の中から、去る5月12日、94歳で亡くなった名優ミシェル・ピッコリを追悼するためにも、彼とブリジット・バルドーが共演し、ジョルジュ・ドルリューが作曲した『軽蔑』(1963 ゴダール)の主題曲のカヴァーを、ここで続けてどうぞ。

https://bit.ly/2UdH57G


そしてゾーン自身、数多くのオリジナルの映画音楽を精力的に手がけ、それらを収録した「Filmworks」と題したアルバム・シリーズも次々と発表。シリーズが16作に達した2005年の時点でそれらを精選したベスト盤も作られたが、その後もゾーンはコンスタントに映画音楽の仕事も手がけていて、現段階では「Filmworks」シリーズは25作まで継続されている。

その「Filmworks」シリーズの4作目(1996)には、以前このブログの拙文で紹介したことのある、きわめて独特で風変わりなアーティスト、ジョゼフ・コーネルが、自ら買い集めた既成の映画フィルムを独自に抜粋・再編集して生み出した異色の初監督映画『ローズ・ホバート』(1936)に、ゾーンが新たに書き下ろしたオリジナルの映画音楽の曲「Pueblo」が収録されている。この珍品映画も、いまやYouTubeではゾーンの音楽付きで作品がまるごと見られるので、ご興味のある方は試しにどうぞ。

https://bit.ly/2BENToF

以前に筆者が書いたコーネルに関する拙文も、どうかあわせてご参照あれ。

https://bit.ly/2XEHTVe

ちなみに、ルイス・ブニュエル監督の異色の中編『黄金時代』(1930)の印象的な一場面をジャケ写にあしらったアルバム「Madness, Love and Mysticism」(2001)の中の収録曲の1つ、その名もまさにコーネル風に「Untitled(無題)」と題した曲においても、ゾーンはやはりコーネルにオマージュを捧げている。

さらには、ゾーンが、あの台湾・香港映画界の伝説的巨匠・胡金銓(キン・フー)が生み出した、武侠映画の金字塔的傑作『侠女』(1970)をはじめ、数々の作品で闘うヒロインを演じた忘れがたき名女優・徐楓(かつてはシー・フンという日本語表記がされていたが、最近は読み方が変わってシュー・フォン)の英語名をタイトルに据えた、ゾーンならではの集団即興演奏によるゲーム・ピースとして生み出されたアルバム「Xu Feng」(2000)の中から、「Dragon Gate Inn」と題された曲を試しにどうぞ。

https://bit.ly/30liX6W


さて、ここで少し時間は前後するが、1990年、「The Carl Stalling Project : Music from Warner  Bros. Cartoons 1936 - 1958」というアルバムを、ハル・ウィナーが企画・プロデュースして発表している。これは、先に紹介したようなトリビュート・アルバムとはやや趣向が異なり、豪華多彩なミュージシャンたちが独自のカヴァーを競い合うのではなく、この知る人ぞ知る偉才音楽家、カール・ストーリング(1891-1972)がかつて手がけた仕事を一枚のアルバムにまとめて現代に蘇らせ、再評価しようというもので、そのライナーノーツの序文をゾーンが執筆し、自らの音楽作りにも多大な影響を与えた彼について熱弁をふるっている。

このストーリングという人物は、かつてサイレント映画の時代に、映画館で映画のピアノ伴奏や楽団の指揮をしていた頃、あのウォルト・ディズニーと知り合い、トーキー最初期のミッキー・マウスや「シリー・シンフォニー」シリーズ等の短編アニメ映画の音楽を担当した後、やがてワーナー・ブラザーズに移り、同社が量産した、バッグス・バニーやダフィー・ダック、ロードランナーとワイリー・コヨーテといった人気キャラクターたちが陽気な騒動を繰り広げる、「ルーニー・テューンズ」や「メリー・メロディーズ」シリーズ等の音楽の作曲や編曲の大半を手がけた、短編アニメ映画の黄金時代を代表する作曲家。

主題が提示され、それが段階的に変化し、展開されていく従来の伝統的な音楽の作曲法とは異なり、あくまでアニメならではの現実離れした荒唐無稽なロジックに従ってめまぐるしくスピーディーに変化する人気キャラたちの動きやストーリーと一体化し、互いに曲調やジャンルの異なる短い音楽の断片が瞬時に切り替わる、ストーリング独特の斬新で変幻自在な音楽スタイルのことを、ゾーンは、ウィリアム・バロウズのカットアップやゴダールの映画編集になぞらえ、彼らよりも前にいち早く時代に先駆けた、アメリカ音楽界の革新的な予言者のひとりだったと絶賛している。

ここではやはり、ストーリングの音楽だけを聴くより、彼が音楽を手がけた短編アニメ映画を見てもらう方が分かりやすいので、そのうちのどれを選んでもいいのだが、台詞抜きで純粋に視覚的ギャグとその音楽が楽しめる、ロードランナーとワイリー・コヨーテの追っかけっこを描いた抱腹絶倒の爆笑短編アニメ映画の1本『Going ! Going ! Gosh !』(1952 チャック・ジョーンズ)を、あくまでそのほんの一例として試しにどうぞ。

https://binged.it/2YfoSrU

それに引き続いて、玖保キリコが自らの人気漫画を監督して映画化し、ゾーンがその音楽を担当した日本の短編アニメ映画、『シニカル・ヒステリー・アワー』シリーズの全4話の中から、「へんしん!」(英語題は、デヴィッド・ボウイ風に「Ch Ch Ch Change」!)と、もう1話「夜は楽し」(ともに1989)を、ここでご覧頂くことにしよう。前者では、ゾーンの音楽作りに協力した豪華ミュージシャンたちの名がずらりと並んだ、ラストのクレジットにもご注目。そして後者では、一瞬、実写映像が出てくる場面に、アッと驚く意外なギャグが仕込まれているので、それはぜひ見てのお楽しみ!

https://binged.it/3eSRyxe

https://binged.it/2YbMDAL


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案の定、長い遠回りになってすっかり手間暇を食ってしまったが、ハル・ウィルナーやディズニー・アニメの話題が再登場したところで、ようやくここで元の出発点に戻って、ウィルナーがプロデュースしたアルバム「Stay Awake」の話をもう少し掘り下げることにしよう。

このアルバムに参加した主要アーティストたちと彼らがカヴァーした曲目を先にジャケ写で簡単に紹介したが、ここでさらに、リンゴ・スターがカヴァーしたディズニー・アニメ映画『ピノキオ』のお馴染みの主題歌、「星に願いを」(原題「When You Wish Upon a Star」)の演奏に参加した、バンドやオーケストラ、コーラス隊も含めると総勢60名以上に及ぶ大勢のメンバーの細かい内訳を、アルバムのライナーノーツで確認すると、次の通りになる。

これを見ると、リンゴ・スターは、ヴォーカルのみ。前回名を挙げたようにハーブ・アルパートがトランペット・ソロを担当しているほか、ドラムは、リンゴではなく、幾多の大物アーティストとの共演で知られる強者のセッション・ミュージシャン、ジム・ケルトナーが担当。そしてビル・フリゼールがエレキギター、(ハリー・)ニルソンが口笛、さらにオーケストラの指揮とアレンジにレニー・ニーハウス、そして、共同プロデュースとしてヴァン・ダイク・パークスの名が並んでいるのが分かる。

ニルソンといえば、彼がカヴァーした曲「うわさの男」(Everybody's Talikn')が、映画『真夜中のカーボーイ』(1969 ジョン・シュレシンジャー)の主題歌に使われ、ヒットしたことでよく知られる人気シンガーソングライター。リンゴやパークスとは親しい音楽仲間で、前者がプロデュースと出演も兼ねた本邦未公開の映画『Son of Dracula』(1973 フレディ・フランシス)の主演や楽曲提供、そして後者のプロデュースによるアルバムなども発表しているが、ここで何より筆者が注目したいのは、ロバート・アルトマン監督がアメコミきっての人気キャラクターを実写映画化した愛すべき珍品、『ポパイ』(1980)のサントラをニルソンが手がけていること。

そしてこのサントラに、パークスは、曲のアレンジと演奏の指揮者として協力しているだけでなく、ピアノ弾きのホーギーという役名で劇中にも登場している。ここでまず、その場面を見てもらうことにしよう(ロビン・ウィリアムズ扮する主人公のポパイが、ひとりであれこれぼやいているのを尻目にピアノを弾いているのが、パークスその人)。

https://binged.it/3dHolVU

ちなみに、ここまで詳しい説明抜きでパークスの名を何度か書き連ねてきたが、音楽ファンなら当然御存知の通り、彼はアメリカ音楽界きってのユニークな逸材。もともとは映画やTVの子役として芸能界入りし、その後、大学で改めて音楽を専攻し、1966年からはワーナー・ブラザーズに移籍して、スタジオ・ミュージシャンや作編曲家として活動する傍ら、ザ・ビーチ・ボーイズ、というより、ブライアン・ウィルソンが、ロック/ポップ界の最高峰に燦然と輝く金字塔的名盤「ペット・サウンズ」(1966)に続くペット・プロジェクトとして精力を注いだアルバム「スマイル」に、パークスも作詞家として参加したものの、ウィルソンがその最中に精神的病に倒れて、アルバム作りは頓挫。同作は、危うく永遠の幻の名盤になりかかったものの、奇跡のカムバックを果たしたウィルソンが、再びパークスらの協力のもと、2004年、ついにこれを執念で完成させたことは、いまや広く知られている通り。

ウィルソンとパークスが最初に共作し、1967年、ザ・ビーチ・ボーイズのシングル曲として発売されていち早く陽の目を見た名曲「英雄と悪漢」を、ここでは、映画『ファンタスティック・Mr.Fox』(2009 ウェス・アンダーソン)の一場面から聴いてもらうことにしよう。

https://binged.it/2AI8M1R

その後、パークスは、「ソング・サイクル」(1968)や「ディスカバー・アメリカ」(1972)など、古き良き時代のアメリカ音楽の伝統を掘り起こすユニークな傑作ソロ・アルバムを発表。実は何を隠そう、筆者も彼の長年のファンのひとりで、寡作家の彼が何年かおきに発表するどのアルバムも愛聴盤なのだが(と同時に、一作ごとにまるで別人のように豹変する、彼の風貌の七変化ぶりにも大いに驚き、幻惑されてきた)、とりわけ個人的に一番のお気に入りといえるのが、1984年に発表されたきわめつきの名盤「ジャンプ!」。

そしてこのアルバムで楽曲のアレンジと楽団の指揮を務めたのが、誰あろう、ニーハウスだったのですね。ウィルナーが1988年にプロデュースしたアルバム「Stay Awake」でのパークスとニーハウス(そしてドラムのケルトナーも)の協働作業は、やはり必然であったといえるだろう。つい先日、めでたく上映再開となった都内の映画館に、細野晴臣の音楽ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』(2019 佐渡岳利)を観に足を運び、ともにすっかり好々爺と化した細野とパークスが、お互いに「僕は君になりたかった」と言い合いながら仲良くハグする場面を目にして、感激を新たにしたことでもあるし、これまで一応、映画縛りであれこれ曲紹介をしてきたものの、今回は特別な例外としてお許し願って、アルバムの冒頭を飾る同題曲をここでぜひどうぞ。

(このインスト曲を聴くたび、それが甘い呼び水となって、筆者は結局アルバムをつい全部丸ごと聴き返すはめとなってしまう、なんとも愛らしくて蠱惑的な1曲なので、皆さんはどうか中毒にかからないようご用心あれ)

https://bit.ly/37a2qEE

そして、ここで改めてニーハウスを追悼すべく、彼が作曲や編曲、音楽監修などを手がけた数あるイーストウッド映画の中から、ここではやはりまず、ジャズ界の天才的革命児チャーリー・パーカーの短い生涯をイーストウッドが演出に専念して映画化し、パーカーと同じアルトサックス奏者であるニーハウスが、主演俳優のフォレスト・ウィテカーにその演奏法を指導・伝授すると同時に、パーカーのソロ演奏だけをオリジナル音源から抜き出し、そこに現代のジャズミュージシャンたちの演奏を掛け合わせるという手法を用いて映画のサウンドトラックを作り上げ、話題を呼んだ『バード』(1988)の中から、「Parker's Mood」を

そして、『許されざる者』(1992)の中から、イーストウッド自身が作曲し、ニーハウスが編曲を手がけた映画の主題曲「クローディアのテーマ」を、ここでは、長年のジャズ愛好家たるイーストウッドの主催により、1996年10月17日、NYのカーネギーホールで催された特別ジャズ・コンサートのライブ演奏の中から、お聴き頂くことにしよう(ご覧になれば分かる通り、ニーハウスは当日、オーケストラの指揮を担当。その特別公演はしっかり収録され、翌1997年、「イーストウッド アフター・アワーズ」と題してCDやDVDが発売されている)。

https://binged.it/3gZxgUJ


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♫ The Long and Winding Road~ ......さて、やはり今回、またしても長くて曲がりくねった文章になってしまった。本当はまだ、『ポパイ』繋がりの続きで、ロバート・アルトマンとハル・ウィルナーの関係にも触れなければならないし、それにまたここで、ウィルナー・プロデュースの「Stay Awake」に続けとばかり、今度はブライアン・ウィルソンがディズニー映画の名曲の数々のカヴァーに挑戦したアルバム「In the Key of Disney」(2011)の中から、またしても「星に願いを」のウィルソン・ヴァージョンを最後に流して、また次回に繋げるという手も勿論あるのだが、さすがに筆者もそろそろ、いい加減疲れてきたし、飽きてもきた。

それに、こちらの毎回のお願い事が、無事天にも届いたのか、先にも記した通り、長い休止期間を経て、上映を再開する映画館もぼちぼち増え始めた。この先まだまだ不安はあるものの、まずは何より、そのことを一映画ファンとして素直に喜びたい。というわけで、これまで3回にわたって続けてきた「一風変わったサントラ紹介」は、いちおう今回で打ち止めにし、また何かの機会があったら、改めて別材料で試みることにしよう。

そこで今回の最後は、かつて松浦寿輝氏が著書「映画n-1」の中で、「好感を持たずにはいられないアイリーン・クインが主演したあのすてきに時代錯誤的な」と評した映画『アニー』(1982 ジョン・ヒューストン)の中から、クインらが「Let's Go To The Movies」を陽気に歌い踊る一場面を紹介して締め括ることにします。では皆さん、次は映画館でお会いしましょう。