●音楽を通して、Let’s Go To The Movies !                    ― 一風変わったサントラ紹介②

2020年05月21日

さて今回も、個人的な趣味に淫した風変わりなサントラをあれこれ紹介することにしよう。

前回の最後に、今回の予告編として、ディズニー・アニメの古典的名作『ピノキオ』(1940 ベン・シャープスティーン & ハミルトン・ラスク)のお馴染みの主題歌「星に願いを」を、ペトラ・ヘイデンがビル・フリゼールのギター演奏をバックに切々と歌った美しいカヴァー曲を紹介した。その曲が収録されているのは、2人がPetra Haden and Bill Frisellの連名で2004年に発表した同題のアルバム。

ただしペトラは、その後もフリゼールとの協働作業を継続させていて、フリゼールがソロ名義で2016年に発表したアルバム「When You Wish Upon a Star」にもヴォーカルとして参加しているし、昨秋発表された現時点での彼の最新のアルバム「Harmony」にも、実質的なバンドのレギュラー・メンバーとして参加している。

アルバム「When You Wish Upon a Star」は、前回紹介したペトラの「Petra Goes To The Movies」(2013)と同様、フリゼールが、彼お気に入りのさまざまな映画やTVのお馴染みの主題曲を独自にカヴァーしたサントラ集。

そして、そのアルバム題からもすぐ分かる通り、こちらでも、フリゼールの伸びやかなギターサウンドに乗せて、ペトラが澄み切ったヴォーカルで『ピノキオ』のお馴染みの主題歌「星に願いを」(原題は「When You Wish Upon a Star」)を新たに歌った別ヴァージョンが収録されている。

前回の最後に、実はこちらの新しい方の「星に願いを」のヴァージョンを紹介しようかとも思ったのだが、あいにくこのアルバムの収録曲は、YouTubeでは有料会員しか視聴できないので、アルバム「Petra Haden and Bill Frisell」の方の旧ヴァージョンを紹介したような次第。今回ここでは、「星に願いを」の新ヴァージョンを枕にして、フリゼール自身の演奏シーンや曲解説などを盛り込んだ、アルバム「When You Wish Upon a Star」のモノクロのスタイリッシュなプロモーション映像を最初に紹介することにしよう。

さて、このアルバム「When You Wish Upon a Star」に題材として取り上げられたさまざまな映画や映画音楽家の中には、先の「Petra Goes To The Movies」と重複するものも結構あって、前回、後者の中から紹介したバーナード・ハーマン作曲の『サイコ』の映画音楽もそのひとつ。ただし、今回のフリゼールの盤の『サイコ』は、御存知アルフレッド・ヒッチコック監督が1960年に発表したサイコ・ホラーの金字塔というよりは、むしろそのリメイク版の方の『サイコ』(1998)。

一体あのお馴染みの古典的傑作を、はたしてなぜ今さら、そしてまた、よりにもよって、なぜガス・ヴァン・サント監督がリメイクする必要があるのか、と最初から疑問符ばかりが付き纏っていたこの無謀なトンデモ企画は、案の定、見た人誰もが首をかしげる何とも気まずい結果に終わり、映画ファンにとっては、はじめからなかったことにしようと、黒歴史まっしぐらの道を辿ったわけだが、当時これを見た筆者にとって、唯一悪くない、と心に残ったのが、映画のエンド・クレジットに流れる、すべてを緩やかに溶解してしまうようなフリゼール独特のギターの音色だった。ちょうどその箇所がYouTubeにアップされていたので、以下をどうぞ。

https://binged.it/2z788KL

(ちなみに、アルバム「When You Wish Upon a Star」に収録されている『サイコ』の曲は、上記のリメイク版映画で使用されたものではなく、ペトラがバックコーラスとして参加した新録版)

そして、ペトラが「Petra Goes To The Movies」では『荒野の用心棒』(1964)を選んでいたのに対し、フリゼールがこのアルバム「When You Wish Upon a Star」でカヴァーに挑んでいるのは、同じセルジオ・レオーネ監督&作曲エンニオ・モリコーネの黄金コンビによる大作西部劇、『ウェスタン』改め『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』(1968)。

以前、拙ブログで同作を紹介した際にも書いた通り、

https://bit.ly/3fUGaSY

モリコーネの名曲があれこれ詰まったこの映画のサントラの中から、フリゼールは実に3曲も選んでカヴァーしている。そのうちの最初のテーマ曲は、筆者だけでなく、ジョン・カーペンター監督も大のお気に入りの珠玉の名曲だが、ギターやヴィオラ、ドラムス等を絶妙に絡み合わせ、そこへペトラの美しい声が加わり、音数は少ないながらもノスタルジックで切ない叙情満点に仕立て直したこのカヴァー・ヴァージョンも、オリジナル版の壮麗なシンフォニック・サウンドに負けず劣らず素晴らしいので、ぜひ皆さんもどうぞ。

https://binged.it/2LBunez


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そして、アルバムの全部まるごとモリコーネの映画音楽のカヴァー曲を集めた、映画・音楽ファン必聴の傑作サントラ盤といえば、今日の音楽界きっての鬼才のひとり、ジョン・ゾーンが、ここまで紹介してきたビル・フリゼールのみならず、アート・リンゼイ、アントン・フィアー、クリスチャン・マークレイ、フレッド・フリス、ロバート・クワイン、ウェイン・ホーヴィッツ、等々、当時のNYダウンタウンの先鋭的なミュージック・シーンをリードする錚々たる実力派ミュージシャンたちをズラリと取り揃えて1985年に発表した歴史的名盤、「The Big Gundown : John Zorn plays the Music of Ennio Morricone」を挙げないわけにはいかない。

(最初の写真が、1985年発表時のジャケ写。2枚目は、その15周年記念盤として、2000年、6つの新録曲を加えてデジタル・リマスター版として再発された時のジャケ写。)

まずはアルバムの冒頭を飾る、何ともダイナミックでカッコいい表題作、『復讐のガンマン』(1967 セルジオ・ソリーマ)[英語題「The Big Gundown」]のカヴァー曲、

https://binged.it/2yZr3aq

そして、このアルバムの中でも、やはり『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』の映画音楽がカヴァーされているので、その曲(ここでのギターはフリゼールではなく、ジョディ・ハリスとロバート・クワインによるツインでのギター演奏)も続けて聴いてもらうことにしよう。

https://binged.it/2ZbKhUG


この頃から、フリゼールは、ゾーンが手掛けるさまざまな音楽プロジェクトに不可欠なキー・プレイヤーのひとりとなり、数々のアルバムに参加。アルトサックス奏者のゾーンと、ギタリストのフリゼール、そしてトロンボーン奏者のジョージ・ルイスの3人が、ハードバップ・ジャズの名曲を選りすぐってカヴァーした共演アルバム「News for Lulu」[アルバムのタイトルは、ソニー・クラークの同名曲から採られたもの](1988)には、サイレント映画時代を代表する黒髪の美人女優ルイズ・ブルックスが、『パンドラの箱』(1929 G・W・パプスト)の中で演じた宿命のヒロイン、ルルの印象的な一場面がジャケ写にあしらわれている。

そしてまたフリゼールは、ゾーンが結成した超アヴァンギャルドな音楽バンドの一つ、「Naked City」のレギュラー・メンバーのひとりとなり、1990年、彼らは同題のファースト・アルバムを発表。

警察無線を傍受してはいち早く事件現場に駆け付け、スクープ写真を激写した伝説的報道写真家ウィージーによる、路上に転がる死体を即物的に捉えた衝撃的な1枚をジャケ写に用いたこのアルバム(ちなみに、バンド名の「Naked City」は、ウィージーの同名写真集から採られたもの。そして、やはりこの名高い写真集がきっかけとなって、NYの街頭でオールロケ撮影を敢行したセミドキュメンタリー・タッチの名作フィルム・ノワール『裸の町』(1948 ジュールス・ダッシン)が生み出されることになる)の中でも、映画音楽のカヴァーがいろいろ試みられているので、ここではジョン・バリー作曲の『007』シリーズのお馴染みのテーマ曲を聴いてもらうことにしよう。

https://bit.ly/2ZjX4oj

このアルバムが発表された1990年、「Naked City」の精鋭メンバーたちは揃って来日し、何回かのライヴ公演を行ったが、実は何を隠そう、筆者も初日の公演に駆けつけて、彼らの演奏を間近で見聞したうちのひとり。

ロックからカントリー、クラシック、ジャズ、スラッシュメタルにまで至る、あらゆる雑多なジャンルの音楽のコラージュの断片を、めくるめく速度で硬軟自在に演奏する彼らの超絶的なテクニシャンぶりはやはり圧倒的だったが、集団的な即興演奏の中に遊戯的な規則を持ち込んだゲーム・ピースの曲をバンドが演奏している最中、素早いキューの合図を送りながらそれを指揮していたゾーンが、突如、「やり直しー」と日本語で叫んで、いったん彼らの演奏を中断し、はじめからもう一度、演奏の仕切り直しをしていた姿が、今でもとりわけ鮮明に記憶に残っている。

この頃筆者は、ゾーンとギタリストの灰野敬二の即興バトルだとか、ゾーンのサックスと、エリオット・シャープのダブルネックのベースやギターに、さらに高橋悠治がサンプラーを使って絡む、という不思議な取り合わせだとか、ほかにもゾーンのライヴにはあれこれ熱心に足を運んでいて、1991年には、「Naked City」の一員としてではなく、自らのバンドを率いて再び来日したフリゼールのライヴにもしっかり馳せ参じている。あれからもうかれこれ30年もの歳月が経ったのかと思うと、自分でもただ驚くよりほかない。フーム、やれやれ。

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ここでさらに、ゾーンと映画というお題を続けると、話がさらに長くなってキリがなくなるので、この続きはまた、改めて次回以降に掘り下げるにすることにして、もう少しだけ、今回の主役であるフリゼールの方の活動を振り返っておくと、フリゼールはこの後、これまで紹介してきたような、お馴染みの映画音楽を独自にアレンジしてカヴァーするのではなく、もともと音のなかったサイレント映画に、オリジナルの曲を新たに書き下ろして伴奏音楽をつけるという、別種の試みにも挑戦している。それが、不世出の喜劇王バスター・キートンのサイレントの短編喜劇、『文化生活一週間』[別題:『キートンのマイホーム』](1920 バスター・キートン & エディ・クライン)、『ハイサイン』(1921 キートン & クライン)の2本立て、及び、長編喜劇『キートンの西部成金』(1925 キートン)をもとにフリゼールが生み出した、「Music for the Films of Buster Keaton」と題された2枚のアルバム(共に1995)。

アルバムの発表に先立つ1993年春、NYマンハッタンの劇場で、フリゼール率いるバンドの生演奏付きで先述のキートンの3本の映画の上映会も行なわれ、2000年の夏には、第16回〈東京の夏〉音楽祭2000の一連のイベントの一環として、やはりフリゼール率いるバンドの生演奏付きで『文化生活一週間』などの上映会が東京でも催されている。キートン・ファン、そしてフリゼール・ファンたる筆者は、アルバムは2枚とも買って持っているが、残念ながらこの上映会には行っていない。ただし今やYouTubeで、フリゼールの伴奏音楽付きの『文化生活一週間』の一部が見られるので、短くて物足りない気がするのは正直否めないが、ここで一応紹介しておこう。

https://binged.it/3cNGQrp

ちなみに、フリゼールはその後、特にこれという具体的な作品名は銘記せず、より自由な発想で作り上げた「Silent Comedy」という題のアルバムも2013年に発表している。

さらには、フリゼール同様、幅広い分野で活躍する現代有数の才能に満ちたギタリストであり、これまたジョン・ゾーン(ほかにも、例えばエルヴィス・コステロ)の重要な音楽仲間のひとりであるマーク・リボーも、サイレント映画にオリジナルの映画音楽を新たにつける試みを積極的に行い、2010年に「Silent Movies」というアルバムを発表したほか、彼の生演奏付きのサイレント映画のイベント上映を何度か行っている。

https://binged.it/2TDu2wn


2014年4月末から6月上旬までの約1カ月半にわたって、「さよならバウスシアター、最後の宴」と題して、吉祥寺にあった名物ミニシアター、吉祥寺バウスシアターが閉館する前のフィナーレ・イベントが開催されたが、これに合わせてリボーも来日。5月4日と5日の2昼夜、『紐育の波止場』(1928 ジョセフ・フォン・スタンバーグ)、『街の灯』(1931 チャールズ・チャップリン)という2本の珠玉のサイレント映画の名作に、彼がライヴのギター演奏でオリジナルの音楽を添えるイベント上映会が各2回ずつ計4回開かれ、筆者は『紐育の波止場』の方に足を運んで、リボーのライヴ演奏付き上映会を存分に堪能したのだった。


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さて今回、「音楽を通して、Let's Go To The Movies !  ― 一風変わったサントラ紹介」の第2弾として、つい個人的な昔の思い出話も交えながら、あれこれ書き綴るうち、案の定、すっかり話が長くなってしまった。まだまだ書きたい話のネタや、中途半端に残してしまった課題はいろいろあるので、今回はこの辺で切り上げて、最後にまた、次回の予告編となる曲を紹介してひとまず締めることにします。その曲は、前回の最後、そして今回の最初と同じ、ディズニー・アニメ『ピノキオ』(1940 ベン・シャープスティーン & ハミルトン・ラスク)のお馴染みの主題歌「星に願いを」。先にペトラ・ヘイデン&ビル・フリゼールによる美しいカヴァー・ヴァージョンを紹介したが、ここでお聴き頂きたいのは、御存知ビートルズのドラマー、リンゴ・スターが、ハーブ・アルパートのトランペット演奏に乗せてリード・ヴォーカルを務めた、以下の珍しいカヴァー・ヴァージョン。

https://bit.ly/2Zjr3g4


この曲やそれを収録したアルバムについて語り出すと、意外な人物の名が芋づる式にまたぞろぞろと飛び出してきて、話が尽きそうにないので、諸々の詳しい説明は、どうか次回を乞うご期待。