●追悼 ジェリー・ルイス(蔵出し原稿)

2020年01月31日

映画ファンの方なら既に御存知の通り、昨日の2017年8月21日、往年の人気喜劇俳優にして映画作家、脚本家、プロデューサー、等々、いや彼自身の著書の題名をここで借りるなら、"The Total Film-Maker"たるジェリー・ルイスの訃報が日本でも伝えられた。享年91。

もう随分前に書き、既に当ブログにも再掲済みのルイスに関する拙文を、改めてこの場に引っ張り出し、それと併せて、前回は再掲することなく省略していたルイスの数本の映画に関する短評紹介も文末に付け加えて、遅ればせながら筆者も哀悼の意を表したいと思う。


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◆『底抜けシンデレラ野郎』(1960 フランク・タシュリン)


例によってここでも変身したルイスが、高い階段を舞踏会場へ向けて降りていく際の、ムーンウォークさながらのステップが素晴らしい。それに引き続いて王女と踊る、メチャクチャなダンスも。しかもこの時、"色彩映画の虫タシュリン"(ジャン=リュック・ゴダール)が、踊る2人の頭上から色とりどりの風船を降らせるのだ。チャーミング王女を演じるA・M・アルバゲッティの、まさにチャーミングな容姿と相俟って、この場面は本当に美しい。

◆『底抜け大学教授』(1963 ジェリー・ルイス)


ルイスの最高傑作として評価の高い爆笑コメディ。監督としての彼の才能は大したことがなく、俳優として築き上げたキャリアを傷つけるばかりだと書いた、ある洋書の監督辞典でさえ(チッチッチッ、分かってないんだな、ベイビー)、この作品にだけは賛辞を贈っている。自信たっぷりのプレイボーイと、対人能力はゼロに等しい大学教授との間で身も心も引き裂かれるルイスの、まさに独演会だ。ヒロインのステラ・スティーヴンスが愛らしい。


◆『キング・オブ・コメディ』(1983 マーティン・スコセッシ)


人気お笑いタレントという劇中での役柄に全く似合わず、まるで顔面硬直症で皮膚が顔に張りついたみたいに、ただただ陰鬱そうな表情ばかり浮かべているルイスを見た時は、驚きを通り越して、やはりショックだった。無論ここではその分を、彼の分身たるロバート・デ・ニーロが終始ニタニタ笑いをして補っていると見るべきなのだろうが、『私のパパはマフィアの首領』(1989 スーザン・シーデルマン)を見ても、事情はさして変わっていなかっただけに、彼の今後がどうも気がかりだ。

[初出:『男優伝説Ⅱ』(洋泉社 1992)を若干修正した]


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なお、上記の『男優伝説Ⅱ』に本文を書く際、その論旨にはやはりどうも合わないので、筆者の方であえて無視を決め込んだルイス映画の1本に、『底抜け』というお馴染みの邦題がなぜか冠せられていない『画家とモデル』(1955 フランク・タシュリン)があって、実をいうとこれこそ、ジェリー・ルイス=ディーン・マーティンのコンビ作の中では個人的に最高傑作と思う爆笑喜劇。コミック好きのルイスが、夜ごと夢を見てはうわごとのように口走る奇想天外な話を、マーティンが新たなコミック作りのアイディアとして巧みに活用する、という物語自体は他愛ないものだが、劇中、コミックの人気キャラ、"バット・ウーマン"や"キャット・ウーマン"ならぬ、"バット・レディ(Bat Lady=こうもり女)"のモデルとして、これが『ハリーの災難』(1955 アルフレッド・ヒッチコック)に続くデビュー2作目となる若きシャーリー・マクレーンが登場し、全編にわたってキュートで初々しい魅力を存分に発揮しているのが、何よりの見もの。太腿も露わな悩ましいボディコン姿で、ルイスを相手にアクロバティックな歌とダンスを披露する以下の場面を、試しにぜひどうぞ。

それから、ルイスの最後の映画主演作として、本邦劇場未公開の『MAX ROSE』(2013 ダニエル・ノア)という作品があり、2013年にカンヌ国際映画祭でいったん仮上映された後、2016年になってようやくアメリカでも正式に劇場公開されたが、残念ながら不評に終わったようで、筆者も見ていない。

一方、ルイスの最後の映画出演作ということで言えば、こちらは日本でも劇場公開され、既にソフト化もされている『ダーティー・コップ』(2016 アレックス・ブリューワー&ベンジャミン・ブリューワー)という作品があり、これは筆者もしっかり見ている。この作品の中でルイスが演じているのは、ニコラス・ケイジ扮する主人公の老父という小さな役どころで、ルイスも案外控えめでおとなしい演技を披露していて、これが初の長編劇映画となる新参の兄弟監督が、一体なぜこの役にルイスをキャスティングしたのか、その辺の意図はどうも今一つ不明ながら、ひょんなことからマフィアの裏金のありかを探り当てた汚職警官のケイジが、その金をそっくりネコババしようと、同僚のイライジャ・ウッドを巻き込んで大胆不敵な強奪計画に乗り出すという話の展開は、黒い哄笑に満ちていて悪くなく、その上、ケイジの嬉々とした悪ノリ演技が何とも愉快で爆笑モノ。しかも最後、さらなる意外なオチで話をさっと締め括るあたり、どうしてなかなかのクセモノで、ルイスの喜劇映画とは笑いのツボが多少ズレている気もするが、ノワール映画やブラック・コメディ好きの人に、意外な拾い物として、オススメしておこう。


[2017.8.22 旧ブログ「In A Lonely Place」にアップ。]