●映画館なき映画文化に明日はあるか   ― 映画館、そして、映画というささやかな商売を、衰退の危機から救うために

2020年04月20日

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、社会や日常生活がすっかり引き裂かれていくさまを、息をひそめながら見守るうち、4月もあっという間に3週間近くが過ぎた。

3月15日付けの拙文でも触れた通り、このコロナ禍は既に映画界にも深刻な暗い影を落とし始めていたが、4月7日に、7都道府県で緊急事態宣言が出されたのを受けて、筆者の住む東京都内では、ロードショー館、名画座を含むすべての映画館が、翌8日(2、3の例外も9日)から少なくとも5月6日まで一斉に休業を余儀なくされることとあいなった。

そして16日には緊急事態宣言の対象区域が日本全国へと拡大され、先週末の18日には、いよいよ日本のほぼすべての映画館が休館するという、文字通り、急転直下の非常事態に突入した。既に映画各社は、当初この春や初夏に予定されていた新作映画の公開延期を相次いで発表し、はたして今後、新作旧作を問わず、映画自体を映画館で見られる時期がGW明けに無事到来するのかどうか、一向に先が見通せない状態となっている。

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かくして、これまで映画を見に劇場までせっせと足を運んでいた世の多くの映画ファンたちは、いまや映画館という慣れ親しんだ場を不意に奪われる形となり、目下のところは家に引きこもり、皆それぞれ、各自のお好みのスタイルで映画を楽しむよりほか仕様がない。

従来、劇場で封切られる話題の邦画・洋画の新作映画紹介をしていた、さまざまなTVや新聞、雑誌、オンラインのサイトなどは、方針転換を余儀なくされ、ここ最近は、紹介する作品の対象を、TVで近日放映予定の旧作や、動画配信で現在楽しめる映画やドラマシリーズなどにまで押し広げ、今こそ、おなじみの名作や埋もれた傑作を見る絶好の機会、とか、何々をテーマにしたオススメ映画特選、だのとあれこれ銘打っては、映画好きの人々の興味と関心を何とか繋ぎ止めようと、懸命に知恵を絞っている。

最新流行の話題作やヒット作ばかりを無闇に追っかけるのではなく、新作一辺倒主義からは一歩身を引いて、もう少し幅広い視点から古今東西の映画をあれこれ観たいし、それらについて書きたい、というのが、筆者の映画に対する長年の基本的なスタンスで、ここ最近の風潮の変化は、この切迫した状況下、やむを得ない苦肉の策であるとはいえ、決してそう悪いことではないし、これまで映画が100年を優に超える歴史の中で積み上げてきた過去の財産を改めて見直す良い契機になれたらいい、と個人的には思っている。

実際、筆者自身、肌身に沁みて体感し、これまで折に触れて文章にも書いてきたことだが、近年、映画を観賞・受容する環境や形態はすっかり多様化が進み、何かと便利な時代に移り変わってきていることは、まぎれもない事実だろう。地上波やBS、CS、ケーブルTVの映画番組や、DVD、ブルーレイ等の市販やレンタルの映画ソフト、はたまたYouTubeや動画配信サービスを活用することによって、家で見られる作品は、あれこれ選り取り見取りあるし、画面サイズの大小にこだわりさえしなければ、それを鑑賞するツールも、TVのモニターやPC画面、さらには、スマホやタブレット等の端末など、さまざま。

19世紀末、アメリカでは、かの発明王トマス・エジソンが覗き見式の映画装置「キネトスコープ」を、そしてフランスでは、リュミエール兄弟が映写式の「シネマトグラフ」をそれぞれ考案し、2つの相異なる映画装置が並走する形で映画は始まった。やがて、スクリーンに映写された映画を複数の観客たちが同時に集団で眺めるという、後発のリュミエール式の映画が主流をなすようになり、観客がひとりずつ順番に1台の機械を覗き見るエジソン式の個人鑑賞型の映画は、いつしか廃れて忘れ去られる運命とあいなった。

上の人物写真がリュミエール兄弟
上の人物写真がリュミエール兄弟
トマス・エジソン
トマス・エジソン
キネトスコープ
キネトスコープ

けれども、20世紀の後半からは、ビデオやDVDの登場・普及、さらには21世紀に入ると、ウェブやスマホといった手軽で便利な機器、環境の発達によって、個々人が各自思い思いに映画を楽しむエジソン式の鑑賞スタイルが再び息を吹き返し、山田宏一氏がいち早く指摘した通り、時代の波は「リュミエールの世紀」から「エジソン的回帰」へと、ゆるやかにシフトしつつある。

今回の思いも寄らぬコロナ・ショックによって、人々が映画館という場から唐突に切り離され、しばらく分離分断を余儀なくされている間に、この移行のプロセスがぐっと加速化され、あるいはひょっとすると今後、映画は各自が家で見るのが世間の一般常識となり、映画館へ映画を見に行くという習慣が一気に廃れてしまう可能性だって、考えられなくはない。とりわけ、長年映画館に通い詰めてきた年季の入った映画ファンはともかく、スマホやタブレットを通してYouTube動画などを日常的にながら見するのに慣れ親しみ、映画館の暗闇の中に長い間身を沈め、他の観衆たちと入り混じって映画を見ることを何かと敬遠しがちな、若い世代の人々のことを考えてみるならば、決してありえない話とはいえないだろう。実際、映画は何といっても映画館で見るに限ると、いまだに映画館原理主義を貫いている頑固一徹な映画ファンは、はたして今日、この世の中にどれだけ存在するのだろうか?

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このような危機的状況の中、既に多くの場で報道され、おそらく今この拙文に目を通している多くの皆さんも御存知の通り、小規模映画館、いわゆるミニシアターが、果たしてこの先も存続できるかどうかに強い危機感を抱く映画監督、俳優、劇場の支配人らが呼びかけ人となって、#SaveTheCinema「ミニシアターを救え!」プロジェクトが4月6日に発足し、支援活動に賛同してくれる人たちの署名をネット上で募集する活動を開始。9日間に66,828名の賛同者を集めて、4月15日に政府に要望書を提出し、10万名を目標に、さらなる署名募集活動を今なお継続している。

そしてまた、このプロジェクトと連携して、映画監督の濱口竜介、深田晃司の両氏が発起人となって、小規模映画館支援のための「ミニシアター・エイド基金」をクラウドファンディング方式で呼びかけるプロジェクトも発足。4月13日から始まったこちらのプロジェクトは、国内最速となるわずか3日間で目標額の1億円を突破。そして本日4月20日には1億5千万円にまで到達した。残りひと月足らずの期限内に、支援金のさらなる上積みを目指して、こちらも引き続きキャンペーンを強力に推し進めている。

https://bit.ly/3bolOyF

https://bit.ly/34O81iy

映画館、わけても、これまで古今東西の多種多様で幅広い映画文化との出会いの場を提供してきた全国各地のさまざまなミニシアターが、まさに今、深刻な存続の危機に立たされていることに対して、多くの映画人たちが声を揃えて立ち上がり、そしてまた、これらの支援活動に対し、短期間にこれだけの賛同者たちが集まり、署名だけでなくクラウドファンディングの基金にも大勢の人々が協力していることは、近頃、何かと暗いニュースが相次ぐ中にあって、なんとも喜ばしくてこちらも大いに元気づけられる朗報のひとつ。

先にあれこれ書いてはきたものの、しかし、筆者もまた、長年数多くのミニシアターや名画座、シネクラブなどに通い続けて世界中の幅広い映画文化と出会い、さまざまなことを学んできた点では、世の多くの映画ファンたちと同じ仲間のひとり。いまや家でも多くのさまざまな映画が見られる便利な時代になったのはありがたいし、普段それをあれこれ活用させてもらってはいるが、しかし、映画館そのものがなくなってしまってはやはり困るし、そんな味気ない近未来社会の到来はできれば避けたい。

実際、古今東西の映画を映画館やシネマテークなどで浴びるように見ながら、映画や人生について学び、やがて映画を見るだけでは飽き足りず、自らも映画を作る側に転じていった世界中のさまざまな映画作家たちは、しばしば映画館そのものを自作の舞台のひとつに選び、そこで物語の主人公たちが自らの人生を大きく変えるような出来事に立ち会う瞬間を、幾つもの忘れ難い名場面の中で印象的に描いてきた。

ここでいまさら、よく知られた例を幾つか紹介するのもベタで恐縮だが、やはりここで筆者の脳裡に真っ先に思い浮かぶのは、『裁かるゝジャンヌ』(1928 カール・Th・ドライヤー)を映画館に見に行って、異端審問にかけられる聖女ジャンヌ・ダルクの痛ましい姿をクロースアップで目の当たりにし、スクリーン上の彼女と一体化しながら、自らもさめざめと涙を流す『女と男のいる舗道』(1962 ジャン=リュック・ゴダール)のヒロイン、アンナ・カリーナ(2019年12月14日、遂に彼女も79才で永眠。合掌)。

次はやはり、スペインの小さな村の公民館で催された映画の上映会で、『フランケンシュタイン』(1931 ジェームズ・ホエール)を純真無垢な眼差しで見つめる『ミツバチのささやき』(1973 ビクトル・エリセ)の少女アナ・トレント。

さらには、切ない恋心を抱く年上の女性ジェーン・アッシャーが婚約者の男性と夜の街でデートする後を必死でつけ回して、2人が連れ立って入った成人映画館の中にも思い切ってもぐりこみ、映画上映の合間に、彼女の方から思いがけない甘いキスをされて浮かれはしゃぐ、『早春』(1970 イエジー・スコリモフスキ)の15歳の少年主人公ジョン・モルダー=ブラウン。

あるいは、ソニー千葉こと千葉真一主演のカンフー映画の3本立てを場末の映画館に見に行って、そこでパトリシア・アークエットと運命的な出会いを果たす、『トゥルー・ロマンス』(1993 トニー・スコット)のクリスチャン・スレイター、等々。

映画館を舞台にした印象的な名場面の作品例は、まだまだ他にも列挙できるが、キリがないので、ひとまずこのあたりで打ち止めにしておこう。

というわけで、ここで再び元の話題に戻って、ミニシアターの支援活動プロジェクトの話。筆者自身、これまで自分の人生において、一体どれだけの回数ミニシアターに足を運び、どれだけの金と時間をミニシアターに注ぎ込んできたのかをいざ考えてみると、とんと見当がつかず、どうせなら、こちらの方こそ逆に支援をお願いして、これまでの投資額のせめて何万分の一でもいいから、ぜひ返してもらいたい、とぼやきたくなるところではあるが、それをぐっと堪えて、筆者もささやかながら署名と寄付に協力しました、はい。もし今回、この拙文で初めて上記のミニシアターの支援活動プロジェクトのことを知ったという方がいるようであれば、今からでも遅くはないので、ぜひご協力のほどを。