●リチャード・リンクレイターのお気に入り映画(蔵出し原稿)

2019年02月20日

映画を撮り始める前に、メキシコ湾沖の石油掘削所で数年間働いていた経験があり、その時期、沖合ではひたすらドストエフスキー等の読書に励み、また休暇で陸に戻った時には、『市民ケーン』(1941 オーソン・ウェルズ)と『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942 同)、『地獄の逃避行』(1973 テレンス・マリック)と『天国の日々』(1978 同)等を2本立てで上映する映画館に通って、1日に最低2、3本の映画を見て過ごしていたというリチャード・リンクレイター。

当初は作家志望だったものの、映画をたくさん見るうち、映画こそ自分の職業であることに目覚めた彼は、働いて貯めた金でスーパー8のキャメラやプロジェクター、編集機材等を買い集め、「映画製作の技術的側面」と題されたガイドブックを頼りに独学で映画作りを習得。当初に作り上げた習作短編群では、まるまる1本の映画を異なる照明のテクニックの実験のために撮るなど、もっぱら技術的な実験に熱中していたという。

以上の記述は、『恋人までの距離』(1995)の公開時に、サイト&サウンド誌がリンクレイターに行なったインタヴューから適当にまとめたものだが、100人近い若者たちの1日の出来事をリレー形式で描いた『スラッカー』(1991)から、実写にデジタル・ペインティングを施してトリップ感覚溢れる異色アニメに仕立てた『ウェイキング・ライフ』(2001)に至るまで、一作ごとに斬新な映画スタイルに挑戦し続ける彼の実験精神をよく物語っているといえよう。

次に紹介するのは、サイト&サウンド誌が10年ごとに世界各国の主だった映画監督や批評家に回答を依頼する、同誌恒例の「オールタイム映画ベスト10」アンケートの2002年9月号にリンクレイターが寄せたベスト10リストとコメント。

★ベスト10

  • 『走り来る人々』(1958 ヴィンセント・ミネリ)
  • 『スリ』(1959 ロベール・ブレッソン)
  • 『2001年宇宙の旅』(1968 スタンリー・キューブリック)
  • 『グッドフェローズ』(1990 マーティン・スコセッシ)
  • 『ママと娼婦』(1973 ジャン・ユスターシュ)
  • 『忘れられた人々』(1950 ルイス・ブニュエル)
  • 『13回の新月のある年に』(1978 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)
  • 『市民ケーン』(1941 オーソン・ウェルズ)
  • 『ファニーとアレクサンデル』(1982 イングマール・ベルイマン)
  • 『カルメン』(1954 オットー・プレミンジャー)

いまや映画も第三世紀に突入しているのだから、せめてトップ20くらいは選ばせてくれないでしょうか? 10というのは枠としてあまりに狭すぎます。 ― あまりにも多くの偉大な映画や映画監督がそこからはみでてしまい、不安で仕方ありません。もう、ここらでやめなくては。


*なお、リンクレイターが、世界中の古典的名作やカルト映画を選りすぐって発売しているDVD/ブルーレイの老舗レーベル、クライテリオンのコレクションの中から選んだ映画ベストテンも、同社のサイトに紹介されているので(上記のリストとは、2本だけダブっている)、興味のある方は、オマケとして下記をどうぞ。

https://ur0.link/2Tvr


[2017.6.16  拙ブログ「In A Lonely Place」にアップ。初出:「新世代監督はアメリカ映画を救えるか」(2003 エスクァイア マガジン ジャパン)]に若干修正を加えた。]