●ウェス・アンダーソンのお気に入り映画(蔵出し原稿

2019年02月20日

「単純明解に言って、ウェス・アンダーソンは、アメリカの喜劇映画の世界において、プレストン・スタージェス以来の独創的な存在である」

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)の登場を前にして、NYの権威ある映画批評誌フィルム・コメントは、ウェス・アンダーソンの才能を激賞し、その紹介記事の冒頭でこう高らかに断言した。スタージェスといえば、第二次世界大戦前後のごく短い活動期間のうちに、『パームビーチ・ストーリー』(1942)等のスクリューボール・コメディの極めつきの傑作をハリウッドに置土産に残して疾風怒濤のように映画史を駆け抜けていった伝説的な天才映画作家。奇抜でユニークな人物造型、観客の予断を許さない迅速で意外性に満ち溢れたストーリー展開等々、たしかにスタージェスとアンダーソンの映画世界に共通するものは少なくない。ただしその一方で、ひたすら狂噪的な前者に対し、後者を覆っているのはどこか甘美で切ない憂鬱、というトーンの違いも目にはつくが。

ちなみに、同誌のインタヴューで「君の映画はなぜあんなに情報がギッシリ詰まっていて物事がすばやく推移するの?」と聞かれたアンダーソン本人は、『突然炎のごとく』(1963 フランソワ・トリュフォー)の冒頭を引き合いに出しながら、そのナレーションの早さを指摘し、『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942 オーソン・ウェルズ)と並んで、この作品から多大なインスピレーションを受けたと語っている。マーティン・スコセッシの存在も重要不可欠で、彼の編集のやり方には誰もが影響を受けているんじゃないか、とも。

さらにアンダーソンは、自分の好みの映画のタイプとして、一つの屋敷の中に多彩な登場人物が集まってお互いがさまざまな駆け引きを繰り広げる、ロマンティックな雰囲気の"お屋敷映画"(ハウス・ムーヴィー)があると述べ、『ゲームの規則』(1939 ジャン・ルノワール)をその例に挙げている。

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さて、次に紹介するのは、やはりフィルム・コメント誌の2000年1/2月号で同誌が特集した"あなたが選ぶ1990年代の映画と映画人"アンケートに、総勢113名にも及ぶさまざまな映画批評家、映画監督たちの中にまじって、アンダーソンが寄せた回答。最も偉大な映画とか監督を選ぶというより、あくまであなた個人に何らかの影響を及ぼした映画と映画人をセレクトしてくれ、というのが設問の趣旨だが、この回答からは、アンダーソンの映画に対する幅広い姿勢がうかがえて面白い。とりわけ、スコセッシとボグダノヴィッチを格好のガイド役に、ハリウッド映画の伝統と歴史を謙虚に学ぼうと努める一方で、1990年代のベスト10リストには、これからの活躍が期待される世界各国の比較的若い監督たちの作品を数多くチョイスして、しっかり映画の現在にも照準を合わせているのが、何より特徴的。彼らの次に続くのは、この僕だ! という彼の意気込みをここに読み取ってしまうのは、はたして筆者だけだろうか。

  • ★『レザボア・ドッグス』(1991 クエンティン・タランティーノ)

  •  これこそ、あらゆる時代を通じて映画狂たちの中から生み出された最大の事件であり、間違いなく1990年代のどの映画よりパクられまくった作品だ、と僕は思います。

  • ★ピーター・ボグダノヴィッチとマーティン・スコセッシ(同等で)

  •  僕は、ビデオ屋のレンタルを利用する際に自分で持ち歩くリストがあって、そこには映画監督であり、映画史家でもあるこの二人 ― すなわち、

  • 1)『マーティン・スコセッシが案内するアメリカ映画への私的な旅』という題のドキュメンタリー映画(1995)と本 

  • 2)『Who the Devil Made It』と題されたボグダノヴィッチの素晴らしいインタヴューとエッセイ集


  • ― から教えを受けた映画作品名が書き記されています。

★ベスト10(順不同で)

  • 『ニコール・キッドマンの恋愛天国』(1991 ジョン・ダイガン/V)
  • 『オリヴィエ オリヴィエ』(1992 アニエスカ・ホランド)
  • 『アイス・ストーム』(1997 アン・リー)
  • 『デイトリッパー』(1996 グレッグ・モットーラ/V)
  • 『リトル・オデッサ』(1994 ジェームズ・グレイ)
  • 『バッファロー'66』(1998 ヴィンセント・ギャロ)
  • 『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』(1992 エイベル・フェラーラ)
  • 『愛さずにいられない』(1989 エリック・ロシャン)
  • 『愛を弾く女』(1992 クロード・ソーテ)
  • 『ジャッキー・ブラウン』(1997 クエンティン・タランティーノ)


*なお、アンダーソンが、世界中の古典的名作やカルト映画を選りすぐって発売しているDVD/ブルーレイの老舗レーベル、クライテリオンのコレクションの中から選んだ映画ベスト10も、同社のサイトに紹介されているので、興味のある方は、オマケとして下記をどうぞ。

https://ur0.link/74Wr


[2017.6.9  拙ブログ「In A Lonely Place」にアップ。初出:「新世代監督はアメリカ映画を救えるか」(2003 エスクァイア マガジン ジャパン)に若干修正を加えた。 ]