●『拳銃魔』(1950ジョーゼフ・H・ルイス)(蔵出し原稿)

2018年12月27日

一組の男女が運命的に出会い、やがて危険なアウトロー・カップルに変貌して破滅への道を突き進んでいく様子をスリリングに描き、後の『俺たちに明日はない』(1967 アーサー・ペン)などに決定的な影響を及ぼした、"愛の逃避行もの(Lovers on the run)"を代表する映画の一本。やはりその先駆的作品である『暗黒街の弾痕』(1937 フリッツ・ラング)や『夜の人々』(1948 ニコラス・レイ)が、主役の男女二人の心の絆を繊細かつロマンティックに綴っていたのに対し、本作の主人公バートとアニーは、拳銃を介してきわめて暴力的かつエロティックに結びつく。カーニバルの射撃コンテストの場で初めて出会った二人は、お互いに頭の上に載せた王冠の先のマッチ棒を次々と正確に撃ち抜いて、相手のハートに火を点けながら、愛を確認し祝福しあうのだ。こうして"拳銃と弾丸のように"切っても切れない関係となった二人が、ひたすら死に向かって疾走する姿を、映画は簡明直截なタッチで荒々しく描き出していく。

エドガー・G・ウルマーと並び称されるB級映画の帝王ジョーゼフ・H・ルイス監督は、本作で、本物のギャング出身の異色映画製作者キング兄弟から、予算40万ドル、撮影日数30日と、製作の自由裁量権を与えられた。それまで、より劣悪な状況下での映画作りを長年強いられてきたルイス監督にとって、これは僥倖ともいえる好条件で、自分の思うがままに演出上の創意工夫を試みることが可能となった。

こうして本作は、チャレンジ精神に富むルイス監督ならではの大胆極まりない演出が至るところで観客を不意撃ちする傑作活劇に仕上がった。とりわけ映画史上に名高いのが、もともと台本では17ページもあった銀行襲撃シーンを、3分半に及ぶ長廻しのワンショットで一気に見せる場面。撮影では、主役カップルが運転するキャデラックの後部座席を外してそこにキャメラ台を取り付け、撮影班が乗り込むと共に、車の後ろにトレーラーを繋いで、そこから録音班がブームマイクで同時録音を行なった。主役の二人の会話はほとんど即興で交わされ、後からダビングは一切してないという。

シナリオはまず、マッキンレー・カンターが自らの原作を脚色し、それをミラード・カウフマンの名を隠れ蓑(フロント)に、当時、下院非米活動委員会の公聴会での証言を拒否して議会侮辱罪に問われ、「ハリウッド・テン」のひとりとしてやがて投獄される運命にあったドルトン・トランボが大幅に短縮しながら書き直した。後にトランボは、やはりキング兄弟が製作した『黒い牡牛』(1956 アーヴィング・ラパー)で、ロバート・リッチの変名で脚本を手がけてアカデミー賞を与えられ、思わぬ騒ぎとなる。


[2016.7.14 拙ブログ「In A Lonely Place」にアップ。初出は、「フィルム・ノワールの光と影」(1999 エスクァイア マガジン ジャパン)]