●『悪の力』[TV放映題『苦い報酬』](1948 エイブラハム・ポロンスキー)(蔵出し原稿)

2018年12月24日

貧民街から身を起こし、社会の頂点まであと一歩のところまで登りつめたギャングの顧問弁護士が、自らの良心に苛まれて苦悩する姿を、苛烈な痛みをこめて綴った傑作ドラマ。『ボディ・アンド・ソウル』(1947 ロバート・ロッセン)の脚本を手がけたエイブラハム・ポロンスキーが、同作の主演男優ジョン・ガーフィールドに勧められて彼の主宰する独立プロのもとで監督デビューを果たし、"視覚的イメージの繋がりと、俳優たちのおもてに表れた人間的個性、それに言葉(会話およびナレーション)のリズムを、時には一つに調和させ、また時には対位法的に用い"ながら、詩的喚起力に富む独自の映画世界を作り上げた。

資本主義経済の非情なメカニズムを寓話風に苦く描き出し、"1940年代の全ての犯罪映画の中でおそらく最も政治色の強い映画"と評されるその鋭い社会批判的姿勢があだとなって、ガーフィールドとポロンスキーはその後、赤狩りに苦しめられ、前者はわずか39才で早死にし、後者が監督第2作の『夕陽に向って走れ』を発表するのは、ずっと後の1969年となる。

貧民街から身を起こし、今ではウォール街の法律弁護士として裕福な生活を送るジョー。彼の顧客であるギャングのベンは、独立記念日に数当て賭博の番号を不正に操作して、町の小規模な賭けの胴元を破産させ、その一斉乗っ取りを図る。ジョーは、今なお貧民街で庶民相手に細々と胴元を営む兄のリオに、事前に警告を与えようとするが無視されて、彼が苦境に陥るのをみすみす見過ごすはめとなり、次第に激しい良心の呵責を覚え始めるが...。


[初出:「フィルム・ノワールの光と影」(1999 エスクァイア マガジン ジャパン)に若干修正を加えた]