●『夜の人々』(1948 ニコラス・レイ)(蔵出し原稿)

2018年12月27日

後にヌーヴェル・ヴァーグの連中をはじめ、多くの映画作家たちから師と仰がれることになる、ニコラス・レイ監督の記念すべき映画デビュー作。

エドワード・アンダースンの書いた原作小説「Thieves Like Us =我々のような泥棒」(後にロバート・アルトマン監督が手がけたその二度目の映画化作品『ボウイ&キーチ』(1974)は、原作の題名をそのまま原題に採用している)に目をつけ、レイにその映画化を勧めたのは、ジョン・ハウズマン。戦前、オーソン・ウェルズと共にマーキュリー劇団を設立し、演劇活動やラジオ番組の製作に共同で携わっていた彼は、レイともやはり戦中・戦後にかけて密接な共同作業を行い、親交が深かった。

映画はまず、「この青年と......この少女......は決して、我々の住む世界に適切に受け入れられはしなかった」というクレジットと共に、親密に寄り添う幸福そうな若い男女ボウイとキーチの姿をクロースアップで捉えた、印象的なプロローグで幕を開ける。続いて画面は、折しも刑務所から脱獄してきたばかりの男たちが平原を車で疾走するところをヘリコプターからの空撮ショットで捉えた、荒々しい場面へと急激に入れ替わる。こうして、主人公たちの親密で愛情に満ちた世界と、彼らを取り巻く苛酷で暴力的な世界とが冒頭から鋭く対置され、周囲の環境が厳しさを増せば増すほど、そこから疎外された者同士の心の結びつきが一層強まるというメロドラマ的構図が用意されることになる(同様の設定は、『危険な場所で』(1952)や『理由なき反抗』(1955)といった、後のレイの作品にも引き継がれる)。

レイ監督は、心が純粋なだけに脆く傷つきやすいボウイとキーチの運命的な出会いと悲劇的な愛の逃避行を、繊細きわまりない演出でみずみずしく描き出していく。社会の裏側で生きるアウトサイダーたちの姿を、冷たく突き放して描くことの多いフィルム・ノワールの作品群にあって、おそらくこの作品ほどロマンティックな魅力と人間的温もりに満ちた感動的な映画もまずないだろう。初々しい好演を披露したファーリー・グレンジャーとキャシー・オドネルの主演カップルは、『サイド・ストリート』(1950 アンソニー・マン)でも再びコンビを組むことになる。

もともと本作は、RKOの新しい製作主任にリベラルで進歩的な映画人ドーリ・シャリーが就任したことから企画が実現したものだった。けれども、1947年に本作が完成した翌年の1948年、RKOは反共愛国主義者の大富豪ハワード・ヒューズによって買い取られたため、彼とは政治的に相容れないシャリーは会社を去り、その余波で映画は長い間お蔵入りにされてしまう。当初の題名『あなたの赤い荷馬車(Your Red Wagon)』から『夜の人々(They Live By Night)』へと改題され、映画がようやくアメリカで劇場公開されたのは、レイが既に監督第4作の『孤独な場所で』の撮影に取りかかっていた1949年11月のことだった。


[2016.10.20 拙ブログ「In A Lonely Place」にアップ。初出は、「フィルム・ノワールの光と影」(1999 エスクァイア マガジン ジャパン)]