●『ファンタスティック Mr.FOX』(2009 ウェス・アンダーソン)(蔵出し原稿)

2019年02月20日

<掘り崩される"家"と"家族">                           

偉大なるアンバ(ダ!?)ーソン家ならぬテネンバウム家の人々の没落と再生を描いた『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)をはじめ、異才ウェス・アンダーソンが紡ぎ出す一見奇抜な物語世界は常に、崩壊寸前の家族が懸命にその関係修復に励むホームドラマでもある。

親子や夫婦、兄弟のすれ違いの人間関係は、ちぐはぐな台詞の応酬もさることながら、アンダーソン映画にあっては何より、各自が占める空間の違いとして明示される。一応は同じ一つ屋根の下に集って共同生活を送りつつも、幾重にも枠取られ、互いに分断した形で並置される屈折した人物や空間配置。

『ライフ・アクアティック』(2004)や『ダージリン急行』(2007)では、擬似家族的な集団や仲違い中の3兄弟が乗り込む探査船や列車にまでその法則は及ぶ。テネンバウム家の屋敷やベラフォンテ号、あるいはダージリン急行の錯綜した内部を、上下や左右への移動撮影を通して順繰りに映し出すショットほど、アンダーソン的な小宇宙の並立状況をよく物語るものはないだろう (だからこそ例外的に、深海潜水艇の狭い船内の中に一同が仲良く居並ぶ『ライフ・アクアティック』のクライマックスが、ひときわ深い感動を呼ぶ由縁でもある)。

これまで、そうしたドールハウス的な、美術セットのあらゆる細部にまで拘ったマニアックな映画作りを貫いてきた同監督だけに、この待望の新作『ファンタスティック Mr.FOX』(2009)をアニメ、しかもCG全盛の現代にあっては時代錯誤とも言える昔懐かしいストップモーションの手法で、えらい手間暇をかけながら作り上げたというのも、妙に納得。今回の試みは、従来の路線からの逸脱というより、むしろ彼独自の世界がより純化されて提示されたものと言えるだろう(すべてイチからデザインして作り上げた精巧なセットを背景に、これまた特製の動物のパペットを少しずつ動かしながらコマ撮りしていくという、何とも七面倒臭くて根気のいる製作工程と、その労苦にもまして、すべてを統御して自分のイメージ通りの映画世界を作り上げられたという同監督の満足げな表情は、特典のメイキング映像で充分窺い知ることができる)。

本作において、主人公の狐一家が新たに移り住んだ夢の棲家は、その向かいに陣取るそれぞれ個性的な3人の農場主たちの王国と対置され、なおかつ彼らの破壊的攻撃によって文字通り掘り崩されて、狐一家の"家"と"家族"そのものが危機に直面することになるのだ。

この後、他の動物たちと連帯し、さらには農場主たちとの宿命の対決を経て、狐一家の"家"と"家族"がどのような変容を遂げるのか。極上のリンゴ酒でも味わいながら見て楽しむのもオツかもしれない。


[2017.6.9  拙ブログ「In A Lonely Place」にアップ。初出:「キネマ旬報 2011年11月上旬号 No.1597」]に若干加筆した。 ]