●『罠』(1949 ロバート・ワイズ)(蔵出し原稿)

2018年12月24日

八百長が仕組まれているとも知らず、人生最後となる試合に臨む落ちぶれた中年ボクサーの姿を息詰まるタッチで綴ったボクシング映画の小佳作。全篇タイトな演出を披露し、カンヌ映画祭の国際批評家連盟賞に輝いたのは、ロバート・ワイズ監督。わずか70数分の限られた作品の時間枠を、物語の進行時間とシンクロさせるという本作の粋な試みは、『市民ケーン』(1941 オーソン・ウェルズ)などで映画の編集者を務め、ヴァル・ルートンの製作によるRKOの低予算ホラー映画で監督修業を積んだ彼ならではのもの。人生の悲哀と侘しさを全身に滲ませながら主人公を好演するのは、かつてボクシングの学生チャンピオンでもあったロバート・ライアン。物語のもとになったのは散文詩で、それを元スポーツ記者のアート・コーンが脚色した。

安宿の一室で休息を取っていたドサ回りのボクサー、ストーカーは、いよいよ今夜の試合が近づいて、ホテルの向かいにあるリングへと向かう。彼は35才で、体力の盛りをとうに過ぎているにも関わらず、自らそれを認めようとはしない。妻のジュリーは、そんな彼が打ちのめされるのが恐くて試合観戦をパスし、夜の街をあてどなく歩き回る。一方、どうせストーカーは負けるものと最初から決め込んでいた彼のマネージャーのタイニーは、街の実力者のリトル・ボーイと組んで、八百長試合の手筈を整えていた。そうとも知らず、ストーカーは、若いボクサーを相手に必死で闘いに挑み...。


[初出:「フィルム・ノワールの光と影」(1999 エスクァイア マガジン ジャパン)に若干修正を加えた]