●『アスファルト・ジャングル』(1950ジョン・ヒューストン)(蔵出し原稿)

2018年12月27日

複数の犯罪のプロたちが集まって宝石強盗を計画し、首尾よく宝石を盗み出すのに成功したものの、思わぬ仲間割れが生じたことから徐々に彼らの夢が潰えていく様子を、『マルタの鷹』(1941)のジョン・ヒューストン監督がスリリングに描いた犯罪活劇。

原作はヒューストン監督がダシール・ハメットと並んで高く評価していた作家、W・R・バーネットの同名ハードボイルド小説(先にヒューストンは、やはりバーネット原作の『ハイ・シェラ』(1941 ラオール・ウォルシュ)を彼と共に脚色していた)。原作では警察の側から書かれた物語の視点を、共同で脚色を手がけたヒューストンとベン・マドウは犯罪者たちの側に移し、それまで何かと誇張され、不気味な怪物として描かれることの多かった彼らの日常を正面からリアルに捉えるよう、修正を加えた(なおマドウは、その後赤狩りでブラックリストに載せられ、『黒い絨毯』(1954 バイロン・ハスキン)、『最前線』(1957 アンソニー・マン)などの脚本をノンクレジットで手がけることになる)。

沈着冷静に計画を立案実行しながら、カフェのジュークボックスで踊り狂う少女の姿についうつつを抜かし、逃亡の時機を逃す初老の紳士泥棒ドク(好演を披露したヴェテラン俳優のサム・ジャフェは、アカデミー助演男優賞にノミネートされた)。都会のジャングルでの生活にケリをつけ、故郷の牧場を買い戻そうと願う、馬好きのディクス(スターリング・ヘイドン)。破産寸前でありながら、魅力的な若い情婦(まだ人気に火が付く前のマリリン・モンローが、愛らしい魅力を見せる)との甘い生活に執着し、計画を破綻へと導くきっかけを作る悪徳弁護士のアロンゾ(ルイス・カルハーン)。そうした各キャラクターの人間味溢れる個性と思惑が、ディテール描写の中できっちりと描き分けられ、本作には犯罪サスペンスとしての興味以外に、人間ドラマとしての厚みも加わることになった。

先にヒューストンが共同脚本を手がけた『殺人者』(1946 ロバート・シオドマク)でも、やはり複数の犯罪プロフェッショナルによる大金強奪計画とその苦い顛末が物語の一部として描かれていたが、本作の成功が大きなきっかけとなって、その後似たようなシチュエーションの犯罪映画が続々と生み出され(ヒューストン監督は、半ば自嘲気味に、101本とその数を算出している)、いわゆる"強奪(=ケイパー)もの"と呼ばれる人気サブジャンルが誕生した。無言で行われる金庫破りの場面が本作以上に延々と続く『男の争い』(1954 ジュールス・ダッシン)や、スターリング・ヘイドンが再び主演を務める『現金に体を張れ』(1956 スタンリー・キューブリック)などに、その直接的影響が窺えるのをはじめ、本作が後続の犯罪映画やミステリー小説に果たした役割はきわめて大きい。


[2017.8.11 拙ブログ「In A Lonely Place」にアップ。初出は、「フィルム・ノワールの光と影」(1999 エスクァイア マガジン ジャパン)]